こんにちは。作業療法士のトアルです。
皆さんは「意味記憶」と「エピソード記憶」の仕組みの違いを知っていますか?
言葉の定義では知っている方も多いと思います。
しかし、これを臨床や仕事で活かすことは中々難しいものです。
今回は「意味記憶」「エピソード記憶」について知識の整理をし、
臨床や仕事での活用方法を考えていきたいと思います。
記憶の分類が分からない方もいるかもしれませんので、記憶の分類の表を記載します。
オレンジで囲まれた部分が、今回焦点を当てる記憶の種類になります。
「意味記憶」とは「情報」や「知識」のことです。
例えば「リンゴは赤い」「犬は動物」など一般的な「知識」「情報」で、
勉強でいうと「英単語」や「九九」など「丸暗記」が必要なものになります。
子供の頃は、これを記憶することが非常に優れていてすごい勢いで吸収していきます。
例を出しますと、幼少期の言語の習得があげられます。
子供の頃に海外にいた経験を持つ方って日本語以外にも流暢に言葉を話せますよね。
自分の身の回りにある情報を吸収する速度が極めて高いのです。
このとても便利な「意味記憶」なのですが、実は小学生くらいまでにピークを迎えます。
「意味記憶」とは逆の特徴を持つのが「エピソード記憶」になります。
「エピソード記憶」とは過去の出来事や、今まで経験・体験してきた記憶のことです。
この「エピソード記憶」はどのように作られているかというと、
その人の経験・体験の中で得られた「意味記憶」を関連させて作られています。
脳は膨大な量の「意味記憶」を「必要なもの」「不必要なもの」と選別していき、
最終的に脳にとって「必要」なものだけを関連させて記憶を作っていきます。
自分の経験や体験が選別され、関連付けされてできたものが「エピソード記憶」になります。
つまり「エピソード記憶」とは「意味記憶を関連させ要約する能力」といえます。
脳が完成されてしまう成人以降は、丸暗記の能力は減退していくそうですが
「エピソード記憶」は年齢を重ねても衰えにくい記憶と言われています。
表にすると以下のようになります。
例えば、セラピストの場合で考えてみましょう。
経験年数の高いベテランの人と新人では患者さんの全体像を見る力は圧倒的に違います。
多くの情報の中から「現病歴」「既往歴」「病前ADL」など必要なポイントをしっかり
押さえることができます。
おそらくベテランのセラピストも、昔はたくさんの失敗の経験を積み重ねてきたはずです。
その中で他者からのフィードバックを受けたり、自己修正したりしながら
自分が体験した事を取捨選択しながら今のスキルを身に着けていったと考えられます。
そうやって必要なポイントを押さえられるようになったのではないでしょうか。
この「意味記憶」と「エピソード記憶」をもう少し理解しやすくするために
図式化してみたのが以下の記事になります。
「意味記憶」と「エピソード記憶」の最大の違いは「関連性」があるかどうかです。
上でも説明しましたが「意味記憶」は「情報」や「知識」のことで「単発の記憶」です。
対して「エピソード記憶」は「単発の記憶」が
「人・場所・時間」を媒介とし、それが互いに「関連」されて出来ていきます。
抽象的で分かりにくいので、図と例をあげて説明してみます。
図で表すとこんな感じです。↓
例をあげると実習中にバイザーに「明日までに橈骨遠位端骨折について調べてきて。」
と言われたとします。
文献を調べると「骨折の分類」「手術の方法」「予後予測」など色々な「知識」が出てきます。
そして、次の日に自分が調べた「知識」をバイザーに説明します。
実習の時に調べた知識って時間が経過しても、その時のシュチュエーションや自分の感情と
一緒に思い出す事ができますよね。
例えば、「疲れて眠っちゃって少ししか調べられなかったんだよなぁ」とか
「がんばって調べたんだけど、この内容だと怒られるかなぁ」とかです。
これは「調べた知識」をバイザーという「人」、実習という「時間・場所」を介して
関連させて作られた記憶だから思い出しやすいとも言えます。
この記憶は「調べた知識をバイザーに説明する経験をした」という
文字通り「エピソード」とともに記憶に残ります。
つまり、「人・場所・時間」を介して関連性を持たせると、散らばっていた「意味記憶」の情報が、
まとまった「エピソード記憶」とすることができるのです。
そして、情報同士が強固に固定されているため「エピソード記憶」は「忘れにくい」のです。
しかし、実習でもそうですが、臨床に出てからも、結婚されている方は子育てや家庭の事で
手一杯になり勉強する時間が中々取れないという方もいるでしょう。
その短い時間の中でしっかり記憶するにはどうすればいいのでしょうか?
短い時間の中で効率よく記憶する簡単な方法があります。
それは「日常生活の中で覚えたことを人に説明する」ということです。
これまで説明してきた内容を思い出してください。
「エピソード記憶」は「長期記憶」が「人・場所・時間」を媒介として、それが互いに
「関連」されて出来ていきます。
そして情報が強固に連結された「エピソード記憶」は忘れにくいのです。
人に自分が体験した事を説明するだけで、その体験の内容が忘れにくくなります。
それはなぜかというと、話したこと自体が「ストーリー化」されるためです。
誰かに話すことは、話した本人の実体験です。
上の実習の例でいうと
「〇月×日、バイザーであるA先生に『橈骨遠位端骨折について調べたこと』について話した」
という現実がエピソード記憶として脳に記憶されます。
人に話すということは、頭の中だけでの反復とは異なり「体験」となります。
これだけのことでも「ストーリー化」され、印象深く長期的に記憶に残せます。
実習の場合だと、ある意味で強制力が伴うことになるのですが、
「日常生活の中で人に話す」だけでも「ストーリー化」できるため記憶に残すことは可能です。
例えばですが、日常生活の場合ですと
・本を読んだら、人に感想や内容を話す。→ 本の内容を忘れにくくなる。
・興味や関心のあるニュースを見たら、人に話す。→ ニュースの内容が忘れにくくなる。
・映画を見たら、人に感想や内容を話す。 → 映画の内容を忘れにくくなる。
・新しくできた飲食店に行って来たら、その内容を人に話す。→ 店の情報を忘れにくくなる。
人に話すだけですから、とても手軽な記憶方法です。
人に話した瞬間から、断片的な情報である「意味記憶」のレベルにあったことが
言語化して話すことでストーリー化されて「エピソード記憶」のレベルとなります。
「エピソード記憶」まで引き上げることができるので記憶に残る効果は高くなります。
なにか記憶にとどめたいことがあれば、上の例のように「人に説明する」ことを
前提にするといいかもしれません。
(相手がバイザーだとパワーが働くかもしれませんが…。)
ですが、この方法は患者さんへの説明や後輩への指導でも使える思います。
この記事が皆様のお役に立てれば幸いです。