こんにちは。作業療法士のトアルです。
今回は「フレイル」について解説させていただきたいと思います。
2014年の事になりますが、日本老年医学会は高齢者が筋力や活動が低下している状態を
「フレイル(Frailty)」と呼ぶことを提唱しました。
この「フレイル」と前回の記事で解説した「サルコペニア」の違いとは何でしょうか?
以下に解説していきたいと思います。
「フレイル」は高齢者の運動能力低下、転倒・骨折などのリスクを表現する用語で、
Friedらによって提唱されました。
転倒防止や介護予防の観点からも重要な概念と考えられています。
Friedらの提案によると以下の5項目の内容について吟味することが重要であるとされています。
➀一年で4.5 kg 以上の体重減少
➁自己評価による疲労
➂一週間の生活活動量から評価される活動量の低下
➃歩行速度の低下
⑤握力などで評価した筋力低下
この5項目のうち3項目以上に該当する場合を「フレイル」と定義しています。
また評価5項目のうち、1から2項目に該当する場合を「プレ・フレイル」と呼びます。
フレイルとサルコペニアの診断基準には重複があるとされており、
フレイル状態の高齢者にはサルコペニアが見られ、
サルコペニアを有する高齢者もまたフレイルの状態を呈しています。
つまり、フレイルはサルコペニアを包括したさらに広義の概念といえます。
フレイルは、身体的要因である「身体的フレイル」について多くの研究がされてきました。
しかし、最近の研究では「精神・心理、認知機能側面」の「精神・心理的フレイル」や
「社会的・環境要因」を含んだ「社会的フレイル」という概念も含まれてきています。
フレイルは、転倒や疾患の発症により障害を抱えてしまう「前段階」と考えられています。
フレイルの特徴は、ケアや支援があれば、その状態の進行を遅らせ、
「フレイルの状態を改善できる可能性がある」ことだと言われています。
転倒や疾患により障害を抱えてしまうと、高齢者の場合には
その障害を改善させることがとても難しくなります。
しかし、障害を抱える前段階の状態であるフレイルは、適切な運動や栄養摂取、
日常生活指導などの支援で改善できるとされています。
その根拠についてはフランスやイタリアでの先行研究により明らかにされています。
フランスでは、フレイルの評価や障害の防止を目的に、
「高齢者フレイルティクリニック」という施設が創設されているそうです。
ここでは、医療、栄養ケア、理学療法、社会的支援といった多角的なアプローチが実践されていて、
対象者の54.6%が内服薬の追加・変更といった医療管理を受け、61.8%が栄養ケアを、
56.7%が理学療法を、25.7%が社会的支援を受けています。
この内訳の中では「栄養ケア」を受けた対象者が最も多くなっていて、
フレイルの対策には栄養ケアが重要なのかが分かります。
高齢者のための栄養アセスメントツールであるMNA®は体組成分析の結果と
相関関係があり、フレイルの検出に有効であると言われています。
フレイルとMNA®スコアは、在宅高齢者のほか、急性期病院に入院した高齢者 、
大腸癌で化学療法を行う高齢者などでも強い関連性が認められています。
大腸癌で化学療法を行う高齢者では、死亡率や化学療法の耐用性でも
相関が認められているそうです。
フレイルの状態にある高齢者は、認知症を発症するリスクが高いと言われています。
フランスの研究では、フレイルに該当しない高齢者の場合で、
認知障害があると認められた割合は10%、プレフレイルでは12%だったのに対し、
フレイルに該当する場合では22%が認知障害を合併していたとの報告があります。
そして、認知障害を伴うフレイルの高齢者は、
その後、数年でADLやIADLが大きく低下することも分かりました。
イタリアの研究では、フレイルの状態にある高齢者は、認知症の発症リスクが高く、
多くは脳血管性認知症を発症したことが明らかになったそうです。
このことから、フレイルの状態にある高齢者では、フレイルから認知症発症する過程で、
動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病の関与も示唆されています。
このような現状を踏まえ「コグニティブ・フレイルティ」という概念が提唱されています。
これは身体的なフレイルと軽度の認知障害を発し合併した状態のことを指していて、
これを予防するには、フレイルの状態にある高齢者が何らかの障害や認知症を発症する前に、
身体機能、栄養状態、認知機能、心理学的サポートといった多角的なアプローチを行う必要性を
示唆しています。
今回は「フレイル」について解説させていただきました。
今後、高齢者の機能維持、認知症の進行予防、急性期疾患やその治療という観点からも、
フレイルという概念は重要になると考えられます。
フレイルの評価自体は、病院だけでなく、高齢者施設、通所型のサービス事業所、
訪問型の事業所においても実施可能です。
高齢者が少しでも要介護状態や認知症、認知障害に陥らずに生活できることを目指すためにも、
フレイルの評価を行い、その防止につとめたいところです。
この記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。