こんにちは。作業療法士のトアルです。
皆さんは「陰圧閉鎖療法」をご存知でしょうか?
別の呼び名として「VAC療法」とも呼ばれています。
急性期病院では、陰圧閉鎖療法を行っている方も多く見られます。
私が初めて見た時の印象は「なんじゃこりゃ?」でした。
創部からチューブが出ていて、その先に変な機械が付いています。
「え?ナニコレ」状態でリハビリ中の管理をどうやって行えばよいか分かりませんでした。
その時はリハビリ部の先輩に一緒に介入してもらい、
リハビリ中の管理方法を教えてもらったという経緯があります。
注意点を抑えれば、管理は簡単なのですが、それを知らずに
リハビリ介入を行うと患者さんへの不利益につながります。
管理自体は難しくないのですが、機器の取り扱い知識は必要になってきます。
今回は「陰圧閉鎖療法の基礎知識とリハビリでの注意点」について
解説しようと思います。
Contents
陰圧閉鎖療法(VAC療法)とは創部に陰圧をかけ、創部の早期治療を目指す目的で行われます。
創部全体を閉鎖ドレッシング材で覆い、創部を陰圧に保つことで創部の管理を行う方法です。
創部は専用のスポンジ状のものを使用し、約125㎜Hgで陰圧をかけていきます。
※圧はやや低めでコントロールする場合もあります。
ガイドラインでは、「肉芽組織が少ない場合の物理療法として、感染・壊死がコントロールされた
創には行っても良い」とされています。
そして創部に陰圧をかけ、スポンジ状の物体に過剰な分泌物を吸収させることで、
創部に適切な湿潤環境を保ち、創部の治癒の促進が期待できる療法です。
陰圧閉鎖療法のメリットは2つあります。
1.創部治癒が早い
2.創部ケアの期間が長く頻回なガーゼ交換での疼痛を軽減できる
これらについて、以下に詳細に解説していきます。
陰圧閉鎖療法のメリットとして、通常のフイルムドレッシング剤の貼付と比較し、
創部の治癒を早めるという利点があります。
陰圧を掛けることで、創部の血流を良くし、細菌を吸引することができます。
また、創部を覆うスポンジ状のドレッシング材にも、肉芽形成を促進する素材を使用しており
創部の治癒速度を促進することができます。
創傷の浸出液が多い場合、連日ガーゼやフィルムドレッシング剤を交換することになります。
ですが、交換の回数が増えると、創部や周囲の皮膚に影響を与える可能性があります。
特に肉芽が形成し始めたころにガーゼ交換を行うと、創部の治癒が遅くなる場合があります。
また、ガーゼ交換のときにガーゼへの癒着がみられることが多く、
ガーゼを除去する際に、創部の損傷を起こす可能性があります。
しかし、陰圧閉鎖療法の場合は、48時間〜72時間ごとの交換で済み、
短期間・頻回な交換ではないため、ある程度創部が安定してからの交換になります。
陰圧閉鎖療法を行う時に使用される、創部を覆うドレッシング材は多孔式になっており、
創部と癒着することが少なく、ガーゼ交換時に疼痛を感じる量が少なくて済みます。
陰圧閉鎖療法は創部の早期改善やガーゼ交換時の疼痛から開放される
というメリットがありますが、デメリットもあります。
感染創や静脈血栓症といった血流が途絶している場合や、
壊死した部分の離断後の場合は使用できません。
その理由として、感染創の場合感染を増悪させる可能性があるためです。
そのため、陰圧閉鎖療法を行う場合は、洗浄を実施し、
感染のコントロールを行ってから実施します。
血流が途絶している場合は、肉芽形成のための血流が乏しく、肉芽が形成されないため
陰圧閉鎖療法を行っても効果がない可能性があります。
陰圧閉鎖療法は保険適応が4週間と期限が決まっています。
そのため、医師は治療期間の判断を行っています。
リハスタッフで創部の直接的な管理はできませんが、感染徴候について
経過を追うことはできます。
リハビリ介入前に発熱、疼痛の増悪、浸出液の汚濁などが見られないか確認しましょう。
陰圧閉鎖療法中にリハビリで注意すべきことは2つあります。
1.リハビリ中のリークに注意
2.創部の状態増悪に注意
これらについて、以下に詳細に解説していきます。
創部を閉鎖し、陰圧をかけることで、創部の治癒を促す治療方法なので、
常に陰圧が掛かっているか確認する必要があります。
陰圧が漏れている状態を「リーク」といいます。
リハビリでは運動療法を行うため、機器を動かした時や、患者さんが動いた時に
リークが発生する可能性が高くなります。
リークを知らせるために、陰圧閉鎖療法の機械には、リークアラームが付いています。
リークがある場合、創部に適切な陰圧が掛からないため、治療が適切に実施されません。
もしリークがあった場合は医師・担当看護師に報告し、リーク箇所にフィルムドレッシング剤を
使用してリーク箇所を塞ぎ、しっかりと陰圧がかかるようにします。
もう1つ覚えていて欲しいのは機器の充電の問題です。
陰圧閉鎖療法では持続的な吸引のために専用の機器を使用し、機器の作動には電力が必要です。
通常はコンセントにつないでおけば、内部バッテリーに充電されます。
充電が十分であれば機器自体を携帯することも可能です。
患者さんが常に移動できるように状態にするため、
ベッドサイドでは常に本体の充電が十分か確認することが重要です。
移動する場合やリハビリ前などはしっかり充電がされていることを確認しましょう。
急いでいる時などはうっかりしやすいので注意が必要です。
上でも述べましたが、リハスタッフで創部の直接的な管理はできません。
ですが感染徴候について経過を追うことはできます。
最近では、病棟の看護師がデジタルカメラを使用し、創部の状態を記録していることが多く、
直接見ることができなくても、カルテ画像で状態を確認する事ができます。
リハビリ介入前に担当看護師から情報収集することや、
患者さんの主訴を聞くことも重要になってきます。
発熱、疼痛の増悪、浸出液の汚濁、出血が見られないか確認しましょう。
今回は陰圧閉鎖療法について解説させて頂きました。
陰圧閉鎖療法は、創部に有効な治療方法ですが、感染徴候や、
出血を見過ごすと大きな副作用をもたらします。
発熱や疼痛の増悪、廃液の汚濁など患者さんの訴えや創部の状態を
確認するようにしてみて下さい。
この記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。