こんにちは。作業療法士のトアルです。
今回は臨床でも良く使用される「MMSE」について
知識の整理をしたいと思います。
臨床ではMMSE(Mini Mental State Examination)と英語の省略で呼ばれることが多いのですが、
日本語の正式名称として「ミニメンタルステート検査」と呼ばれます。
認知症の診断用にアメリカで1975年、Folsteinらが開発した認知機能検査です。
11の質問からなり、時間と場所の見当識、3単語の記銘力、注意と計算力、3単語の遅延再生、
言語的能力、構成能力などをスクリーニングする検査です。
現在、認知症の評価尺度として国際的に最も使用されており、他の認知症のスクリーニング検査や
評価指標の多くがMMSEの得点との相関に基づいて検証を行っています。
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日本語版MMSEを作成した森ら(1985年)は、30点中の24点以上をカットオフ値としています。
この24点以上を健常としたのには理由があります。
健常者の93.3%が24点以上であったことから、24点をカットオフ値とした方が望ましいとされ、
逆に認知機能障害のある患者の83.3%が23点以下であり、
アルツハイマー型認知症患者の95.8%も23点以下であったことに由来しています。
感度としては83%、特異度は93%であり、高い精度を有する検査であるとされます。
感度と特異度について、詳しく知りたい方は以下の記事を参考にどうぞ。
感度と特異度について作業療法士が解説
大まかな解釈としては、
・10点未満では高度な認知機能低下、
・20点未満では中等度の認知機能低下
と診断されます。
では、それぞれの項目について以下に詳しく見ていきましょう。
1.時間の見当識(5点)
初めは「時間の見当識」についてです。
アルツハイマー型認知症の方は時間・場所の見当識から障害されていきます。
・今年は何年ですか。
・いまの季節は何ですか。
・今日は何曜日ですか。
・今日は何月ですか。
・今日は何日ですか。
2.場所の見当識(5点)
時間の見当識と同様に場所の見当識についても、アルツハイマー型認知症の方は
早期から障害されます。また、場所の見当識については視空間認知も関わってきます。
・ここは何県ですか。
・ここは何市ですか。
・ここは何病院ですか。
・ここは何階ですか。
・ここは何地方ですか。
3.記名(3点)
この項目は、無関係な3つの単語の記銘力の確認になります。
教示方法としては、物品名を3個聞かせ、それをそのまま復唱させます。
1つ答えられるごとに1点となり、すべて言えなければ6回まで繰り返します。
よく使われるのはHDS-Rで使われる「桜―猫―電車」です。
4.Serial7’s(5点)
注意機能と計算課題が可能かをみる検査です。
教示方法としては100から順に7を引いていきます。5回できれば5点。
あるいは「フジノヤマ」を逆唱させます。
Serial7’sの課題では、途中で間違いがあっても、原則5つ目まで実施するようにします。
直前の回答から、7を引いた数が正確にできるかによって得点として数えられるかを考慮します。
例えば、
➀ 93(正)-84(誤)-77(正)-70(正)-63(正) → 4点
➁ 93(正)-86(正)-79(正)-73(誤)-68(誤) → 3点
➂ 93(正)-82(誤)-76(誤)-70(誤)-63(正) → 2点
➀では2つ目の引き算に間違いがありますが、その後は問題なく計算できています。
この時の解釈として論理的ワーキングメモリーは問題がなく、不注意だった可能性があります。
➁では4つ目の引き算に間違いがありますが、その後は問題なく計算できています。
この時の解釈として論理的ワーキングメモリーは問題がなく、持続性注意の可能性があります。
理由としては➀と違い前半は正解が続いており、回数を重ねるとエラーが生じているためです。
➂では間違いが3つあり、解釈としては論理的ワーキングメモリーの障害の可能性があります。
このように単純に、点数だけではなくエラーの数や、エラーの箇所について
なぜ起きているかを考える必要があります。
また、上記の例はあくまで可能性です。
MMSEでのスクリーニングと併用して他の認知機能検査を行う方がよいと思います。
5.想起(3点)
課題3で示した物品名を再度復唱させます。
課題4の計算という干渉課題を経て記憶の「想起」や「再生」が可能かを
検査する課題になります。
正答が出ない場合は、通常はHDS-Rと同様にヒントを与えて検査を実施します。
ヒントがあって正答ができる場合は、正常な加齢に伴う聴覚言語記名の
保持・想起(再生)の脆弱さや、軽度認知障害(MCI)の可能性が考えられます。
もし、カテゴリーに関するヒントがあっても正答できない場合は、
アルツハイマー型認知症の疑いがあり正常加齢とMCIの鑑別に有用とされています。
6.物品呼称(2点)
「失認」「失名詞」をスクリーニングする項目になります。
これが障害されると、喚語困難の疑いの可能性があります。
教示方法としては、時計と鉛筆を順に見せて、名称を答えさせます。
7.読字(1点)
復唱の課題で「失語」をスクリーニングする検査になります。
教示方法としては、以下の文章を繰り返します。
「みんなで、力を合わせて綱を引きます。」
8.言語理解(3点)
3段階の口頭命令で聴覚的な理解が可能かをスクリーニングします。
教示方法としては、次の3つの命令を口頭で伝えます。
すべて聞き終わってから実行してもらうようにします。
「右手にこの紙を持ってください」
「それを半分に折りたたんでください」
「机の上に置いてください」
9.文章理解(1点)
課題8は聴覚的な指示になりますが、こちらは視覚的な理解をスクリーニングする項目です。
「失読」のスクリーニングにもなります。
教示の方法としては、以下の文章を読んで実行してもらいます。
「目を閉じて下さい。」
10.文章構成(1点)
「書字障害」をスクリーニングする検査になります。
識字率や学歴に影響されたりするので事前に情報収集が必要です。
高齢の方ですと書けないことが多いです。
教示の方法としては「何か文章を書いてください。」という指示を行います。
11.図形把握(1点)
「視空間認知」をスクリーニングする課題になります。
教示方法としては、「この図形を書き写してください。」という
指示を以下の図形をみせて行うようにします。
臨床でよく使うMMSEですが、まとめてみると結構大変でした。
この検査結果から得られた評価を元に、日常生活でどういうケアや本人や介助者に対する
アドバイスができるかが作業療法士の腕の見せ所だと思います。
また、MMSEはあくまでスクリーニングであり、さらに細かい評価を行う場合は
別の認知機能検査を行っていく必要があります。
以前の記事で紹介している検査もあるので参考にしてみて下さい。
レーブン色彩マトリックス検査について
コース立方体組み合わせテストについて
この記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。