こんにちは。作業療法士のトアルです。
今回は臨床でも良く使用される「HDS-R」について知識の整理をしたいと思います。
HDS-Rは、1974年に精神科の長谷川和夫によって開発された
長谷川式簡易知能評価スケールを、1991年に加藤らが改訂したものです。
Contents
メリットとしては簡便な知能検査で、主に認知症患者のスクリーニングのために用いられます。
また、臨床で使用しやすいように分かりやすい言葉で自然な並びの課題構成となっています。
デメリットとしては言語性知能検査であるため、失語症・難聴などがある場合は検査が困難となります。
HDS-Rは30点満点となり、カットオフ値は21点以上を健常、
20点以下は「認知症の疑い」と判定されます。
この場合の感度は93%、特異度は86%となっています。
認知症のスクリーニング検査ではMMSEが世界標準となりつつありますが、
日本では老健施設などではHDS-Rが活用されている場合があります。
そのため、MMSEだけではなくHDS-Rもしっかり使いこなせた方が良いと思います。
評価項目は9項目あり、
1「年齢」2「日時の見当識」3「場所の見当識」4「言葉の即時記銘」
5「計算」6「数字の逆唱」7「言葉の遅延再生」8「物品記銘」
9「言語の流暢性 」となっています。
詳細については以下に説明していきます。
【教示方法】
「お歳はいくつですか?」 (2年までの誤差は正解)
【採点方法】
不正解 0点 正解 1点
【教示方法】
「今日は何年の何月何日ですか?何曜日ですか?」
(年・月・日・曜日が正解でそれぞれ1点ずつ計4点)
【採点方法】
・年 不正解 0点 正解 1点
・月 不正解 0点 正解 1点
・日 不正解 0点 正解 1点
・曜日 不正解 0点 正解 1点
【教示方法】
「私たちが今いるところはどこですか?」
(自発的にでれば2点、正答がないときは5秒後にヒントを与える)
【ヒントの教示方法】
(5秒おいて)「家ですか?病院ですか?施設ですか?」
【採点方法】
・自発的に答えられた場合 2点
・上の3つの中から正しい選択ができた場合 1点
・不正解 0点
【教示方法】
「これから言う3つの言葉を言ってみてください。」
「あとでまた聞きますのでよく覚えておいてください。」
(以下の系列のいずれか1つで行う。言葉ごとに正解すれば各1点ずつ与える)
【系列1】
a)桜 b)猫 c)電車
【系列2】
a)梅 b)犬 c)自動車
【採点方法】
・3問正解 3点
・2問正解 2点
・1問正解 1点
・不正解 0点
【教示方法】
「100から7を順番に引いてください。」
(aが不正解のときはbは行わない。正解の場合はa、b各1点ずつで計算)
a) 100―7は?
b) それから7を引くと?
【採点方法】
・a)不正解 0点 正解(93) 1点
・b)不正解 0点 正解(86) 1点
【教示方法】
「私がこれから言う数字を逆から言ってください。」
(aが不正解のときはbは行わない。正解の場合はa、b各1点ずつで計算)
a) 6―8―2
b) 3―5―2―9
【採点方法】
a)不正解 0点 正解(2-8-6) 1点
b)不正解 0点 正解(9-2-5-3)1点
【教示方法】
「先程覚えてもらった言葉(問4の3単語)をもう一度言ってみてください。」
(正答がでなかった言葉にはヒントを与える)
【ヒントの教示方法】
「a) 植物b) 動物c) 乗り物」を与えたら正解可能。
【採点方法】
・自発的に答えられた場合、1つの言葉につき各2点
・1つの言葉につき各1点
・不正解 0点
【教示方法】
「これから5つの品物を見せます。」
「それを隠しますので何があったか言って下さい。」
(1つずつ名前を言いながら並べ覚えてもらい次に隠す)
(時計、櫛、はさみ、タバコ、ペンなど必ず相互に無関係なものを使う)
【採点方法】
・1つ正答するごとに1点
・5つ正解 5点
・4つ正解 4点
・3つ正解 3点
・2つ正解 2点
・1つ正解 1点
・全問不正解 0点
【教示方法】
「知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください。」
(答えた野菜の名前を記入する。途中で詰まり10秒待ってもでない場合にはそこで打ち切る)
【採点方法】 (正答数ごとに点数を加点する)
・正答数10個以上 5点
・正答数9個 4点
・正答数8個 3点
・正答数7個以上 2点
・正答数6個以上 1点
・正答数0~5個 0点
HDS-Rは設問4の即時記憶課題と設問7の遅延再生課題、設問9の物品記名に
大きく得点が割かれています。
理由としては初期のアルツハイマー病を見逃さないためです。
アルツハイマー型認知症のある対象者の場合、遅延再生が顕著に障害されます。
例え、他の設問が間違いがないとしてもアルツハイマー型認知症の疑いがある場合は
設問4・7・9の得点が低下してしまいます。
また、物品記名の検査(設問8)では、目前に視覚的に提示されるため設問4や設問7とは
記銘に動員される感覚様式が異なってきます。
そのため、聴力が低下している高齢者では設問7での聴覚入力の場合の再生よりも
設問8での視覚入力での再生の方が点数が高くなる場合もあります。
HDS-Rでは構成能力をみる視空間認知機能の評価がないため、別の補助的な検査が
必要になってきます。
臨床でよく使うHDS-Rですが、改めてまとめてみると新しい発見があります。
この検査結果から得られた評価を元に、日常生活の中で本人や介助者に対する
実用的なアドバイスができるかが作業療法士の腕の見せ所だと思います。
また、HDS-Rはあくまでスクリーニングであり、さらに細かい評価を行う場合は
別の認知機能検査を行っていく必要があります。
以前の記事で紹介しているのもあるので参考にしてみて下さい。
MMSEについて
FABについて
コース立方体組み合わせテストについて
レーブン色彩マトリックス検査について
この記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。