急性期リハビリで作業療法士が橈骨遠位端骨折について知るべき2つのこと




こんにちは。作業療法士のトアルです。

今回は急性期リハビリで「橈骨遠位端骨折について知るべき2つのこと」について
解説させて頂きます。

聞きなれない方に説明をすると、橈骨遠位端骨折とは「手首の骨折」の事です。

術後の患者さんに、急性期の作業療法士として具体的に何をするのか、
また、患者さんへの注意点や自主トレーニングをどうやって
指導していけばいいのかについて解説させて頂きます。

リハビリの基本とその注意点

術後あるいは外傷直後の急性期では「浮腫」による「手指の腫脹を最小限にする」
ことが大切です。

その理由についてですが、浮腫が長期間続くと繊維性結合組織の増殖が生じ、
固くなって関節の「拘縮」が起きるためです。

一度作られてしまった「拘縮」を改善するには長期間のリハビリが必要になります。
時間・費用とともに患者さんにとって大きな不利益となります。

この「拘縮」を予防することが、急性期作業療法士の役目になります。
そのために押さえておいて欲しいことは
「患肢の挙上」「早期の自動運動」です。

 

「患肢の挙上」の指導について

なぜ「患肢の挙上」が必要なのでしょう?

その理由としては血液を患部に『うっ滞』させないためです。

患部に血液が『うっ滞』すると、先に述べたように「浮腫」が生じます。

長期間の浮腫で結合組織が固まる事で「拘縮」が生じるのもそうですが、
浮腫が生じて皮膚がパンパンになると強い「痛み」が発生することがあります。

この痛みがあるため「患肢以外の動かしてもいい関節」※1を動かさないという
ケースも多々あります。

患部以外が腫れて痛い場合もあり、動かすと痛いから無意識にかばっちゃうんですね。

手は本来、日常的に動かすことが多い部位です。
健常であれば「筋ポンプ作用」で静脈に溜まった血液が心臓に戻ります。※2

しかし、痛みで「動かしていい箇所」を動かしきれないと
血液が心臓に戻らず浮腫が改善しにくいのです。

※1 保存療法・術後に関わらず、必ず担当医に「患肢以外の動かしていい関節」について
  安静度の確認を行ってください。
※2 血液が溜まりやすい場所は静脈で、これは日常的な動作の中で筋肉が収縮することで
  心臓に戻っていきます。これを筋ポンプ作用といいます。

 

「患肢の挙上」の具体的な方法

これを改善するには『患肢を心臓より高い位置に保持させること』です。
重力を利用して患部にうっ滞した血液を心臓に戻すんですね。

横になるときは、枕やクッションを利用して手を心臓より高い位置に置きます。

例)
・肘を軽く曲げ、前腕部に枕やクッションを置き、心臓より高い位置に置く。
・ポイントとしては安定した肢位にすること。
・担当医に確認し許可があれば、肩の挙上を行い「バンザイ」の姿勢にします。
ただ、疲れやすい姿勢ですので、患者さんの様子を見てから行ってください。

この肢位を患者さんに指導するかしないかだけで、浮腫の改善は大きく変わります。
「痛み」に敏感な方で自動運動が難しい場合、まず「患肢の挙上」から始めて下さい。

痛みが継続する場合は、鎮痛剤の変更の必要性があるかもしれません。
担当医や看護師に相談してみましょう。

痛みはADL・自主トレなどの阻害因子です。
患者さんの主訴を聴きながら対応していきましょう。

「早期の自動運動」の指導について

早期の自動運動にはうっ滞した毛細血管の流れを改善する働きがあります。

そのため、運動が許可されている関節についてはリハビリ時間外でも
積極的に動かしてもらうようにします。

これには患部以外の関節の拘縮を予防する目的もあります。
いわゆる「自主トレーニング」ってやつです。

高齢者の場合ですと、安静期間中に患部側の関節(肩・肘など)の
拘縮が発生する可能性が高いです。

そうなると、その拘縮部位がADLでの阻害因子となるためリハビリの対象となり、
結果的に治療期間が長引いてしまうことがあります。

 

早期の自動運動の具体的な方法

手指の自動運動をやってもらうためには具体的な目標があるといいと思います。
例えば、上の図のような「6-pack exercise」などがあります。

特に浮腫がある場合は可動域の制限があり、触覚が鈍くなっていることがあり、
「動かしにくい」「やっぱり動かない」といった、意図した動きができないことで
ネガティブな感覚が残りやすいものです。

そういう時は、自動運動をするときに道具を利用して自動運動をしてもらうこともあります。
例えば、手のひら大のゴム製カラーボールを握ってもらうなどです。

リハビリ専用のものではなく、100均のものでも構いません。

ボールなどの対象物があれば、握り動作をすると運動神経だけでなく、
ものを握った時の感覚入力なども促通できます。

手指に浮腫がある場合は手指のMP・PIP・DIPの屈曲が難しい場合が多いので、
ある程度の大きさはあった方がいいかもしれません。(大体6㎝位)

こんな商品も最近はあるようです。

本来は首や肩や腰に使用するようですが、手指の浮腫・拘縮予防にも使えると思いますよ。
手が良くなれば、本来の使用方法で使えるので一石二鳥ですね。

 

自主トレの回数

「自主トレの回数はどれくらいするの?」という質問を受けることがありますが、
私は疼痛や疲労を感じず、安静度範囲内であれば、どれだけ動かしても
いいのではないかと思います。

日常生活では手指・手をどれだけ動かしているなんてカウントしませんよね。
治療に影響しない範囲であれば積極的に行ってもいいと考えます。

自動運動指導の導入部分では、回数を設定してもいいかもしれませんね。
この回数については患者さんの疼痛・疲労・意欲などを評価しながら
具体的な回数を決めましょう。

リハビリ時間外での自動運動の回数などを記録して視覚化しておくと、
後でどれだけできたのか確認できます。

そうすれば、患者さんも達成感を得られやすく
「もっと良くなりたい」という意欲の継続になるのではないでしょうか?

 

早期自動運動の評価の目安

評価の目安についてですが、「疼痛の改善」「可動域の改善」などいろいろあります。
リハビリ中であればフィードバックもできるのですが、リハビリ時間外だと難しいです。

患者さんが自分でできる評価として「皮膚の皺」が出てきているかを
見るようにお願いしています。

浮腫でパンパンになっていると皮膚は強い光沢感が出てきます。
しかし、自動運動を行うと筋ポンプの影響で血流が改善され腫れが引きます。

そうすると、皮膚が緩んできて皺が出てきます。
自分の経験則になりますが「腫れがとれて楽になった」などをよく聞きます。

↓「筋ポンプ」について知りたい方はこちらの記事を参考に!

 

早期の自動運動の問題点

浮腫改善のための自動運動を、安静度を守って自分でできる方なら問題ないのですが、
臨床では、認知症などで自動運動への理解の乏しさがあるケースもあります。

リハビリでの他動運動でもある一定の効果はありますが、リハビリ時間以外での
自主トレーニングを指導しても浮腫は改善は不十分な場合が多いです。

高齢者の場合だと「良くなりたい」という意欲や、「今後こうすれば良くなる」といった
展望記憶が働きにくいからかもしれません。

その場合は、病棟の看護師・介護士の方へ協力をお願いしたり、
家族の方から協力が得られるのであれば、浮腫改善の指導を行っています。

また、浮腫改善のために「コーバン」といわれる包帯を用いて
手指などを軽度圧迫し血液循環を良くする方法もあります。

 

太さは25㎜、50㎜、75㎜の3種類があり、私の勤務している病院では25㎜を使用しています。
包帯自体に粘着性があるので、普通の弾性包帯のようにテープで止める必要がないという特徴があります。
数回は繰り返し使えるので便利ですよ。

コーバンの使用上の注意点としては『皮膚トラブルが起きないか』確認することです。

かぶれたりする方もいるので15分置きに数回チェックし、問題なければ就寝中などにも
使用するようにしています。

夜間帯はチェックできないので、看護師さんに皮膚トラブルがないか確認をお願いしています。

 

まとめ

急性期に勤めて初めの頃は「患者さんのために何かしてあげないと!」
という思いが強いですが、急性期の術直後は安静が必要なことがほとんどです。

積極的に運動療法でのリハビリというイメージを持ちがちですが、
まずは担当医からの安静度をよく確認してください。

骨折後の浮腫の軽減も、急性期ではとても重要な作業療法士の役割になります。

↓橈骨遠位端骨折に関するまとめ記事はこちらです↓

この記事が皆様のお役に立てれば幸いです。