あなたのADL訓練は「できる」?「している」?どっち?




こんにちは。作業療法士のトアルです。

今回は「病棟内・リハビリでのADL訓練の内容」について解説させて頂きたいと思います。

ADL評価として良く知られている評価法は
「バーゼルインデックス(BI)」や「FIM」がありますが、
その評価や訓練をどのように効果的に出していけばいいのでしょうか?

ADLの訓練内容が病棟内で実用的になされていなければ、意味がないですよね。
対象者が「できる」のか「している」のかで、
自宅に戻ってからの介助量やQOLに大きく影響してきます。

今回は、ADL訓練の結果、対象者が「できるADL」になっているのか
「しているADL」になっているのかについて、自分の考えをまとめていこうと思います。

ADL評価の意義

ADLとは「Active of Daily Living」の略語で、「日常生活動作」と訳されます。

日本語でいうと「日常生活で日々、自立して実用的に繰り返してる動作」です。

リハビリでの最終目標はICFでいう所の「活動」への参画になります。

つまり、リハビリの最終目標は在宅での実用性の獲得であり、
その前段階の目標として病棟内ADLの実用性を獲得することになります。

 

「できるADL」とは?

「できるADL」とは「やってもらえばできるADL」も含みます。

少し乱暴な言い方かもしれませんが、「やってもらえば」という意味は
「介助者側からの誘導」という強制力が働きます。

できれば対象者には自発的にADLを行って欲しい所ではありますが、
中々難しいこともありますよね。

しかし、時としてこの誘導は有効なものとして働きます。

認知症の方や高次脳機能障害がある方など、発動性が低下している場合や、
意欲低下が強い場合は自発性が乏しいため、介助者側から声掛けをするなど
誘導をしなければなりません。

また、注意の持続・注意の分配・注意の転導性に問題がある場合や、
遂行機能障害などがある場合も手順が混乱するため、
見守りやセッティング、タイミングよく声掛けをする必要があります。

リハビリでのADL訓練場面と病棟内ADL場面の行動の違い

リハビリ訓練場面と病棟内ADL場面で、実際にその動作が行えるかどうかは
そのADL動作を実行するための「時間」と、その時の「感情」が関与します。

もう少し分かりやすく説明すると、リハビリ訓練場面ではたとえ時間がかかっても、
セラピストが「正のフィードバック」を行いながら訓練するので、
達成感を感じながら訓練を進めることができます。

しかし、病棟内ADLで時間がかかると努力を強いられる上に、
動作ができないことで苦痛を感じ自信を喪失することがあります。

出来ないことを繰り返して、失敗を積み重ねるとやがて無力感を生じます。
できない自分が嫌になり、プライドを傷つけられる結果となります。

そうすると人はどういう反応をするでしょうか?

プライドを傷つけられると人は、自分を守ろうとします。
言い訳や、やらない理由を自分で「作り出す」ことになってしまいます。

そうすると、結果的に失敗を繰り返してしまうADL動作をやらなくなってしまいます。

セラピストでも経験年数が浅いうちに失敗ばかり体験し、怒られてばかりだと
やる気を失いますよね。それと同じことだと思います。

対象者のプライドを傷つけないためにはどうする?

対象者のプライドを傷つけないようにするには
「誤りなし学習」「努力なし学習」が大切です。

それぞれを「Errorless」「Effortless」とも言います。

色々な疾患の対象者がいるので場合によりますが、
パッと見で対象者が出来そうなのにやっていない動作から
見ていく(評価していく)のがいいのではないかと思います。

身体機能や認知機能などの障害の要因は絡んできますが、中には本人ができるのに
「え?それも介助しているの?」っていうようなADL動作もあります。

できる所は本人にやってもらう。

そこから、1つずつADL動作のレパートリーをふやしていけるようすれば、
「あの動作は難しいかもしれませんが、これはできますね。」
というようにその人の強みに焦点があてられ、対象者の自己効用感
も高まるのではないでしょうか?

自分がへこんでいるときや、つらいときの励ましって、うれしいものです。
「あの言葉を掛けてくれたから頑張ろうと思った」などこちらが思っている
以上の効果が出ることもあります。

話を戻しますが、一般的にADLの評価は練習時のセラピストの憶測などが入っていることも多く、
病棟の看護師や介護士からの情報収集のみで判断していることもあると思います。

そのため、病棟ADLに動作が反映されていない場合もあります。
つまり、実用的になっていない。

月並みになりますが、病棟内で実用的になっていないADL動作がある場合は
「なぜそれが出来ていないか?」について要因解析する必要があります。

 

「しているADL」とは?

「しているADL」とは病棟生活で実際に行っているADLであり、
日頃、実用的に行われているADLです。

最終的にこの動作が自宅で行えるようにしていくのがリハの目標になってきます。

自宅での実用化を目標に病棟での生活を自宅での生活に落とし込んでいく必要があります。

病棟での生活は、自宅とは違い段差などはなく、手すりなどが設置してあり
バリアフリーの環境です。

病室からトイレの移動も往路・復路問わず手すりなどがあります。
仮に自宅が片方の手すりしかなく、伝いで移動しなければならない場合などは
そのように病棟でのADL訓練をする必要があると思います。

これはトイレの場合も同様で、自宅の手すり位置の設置個所と
病棟の手すりの位置が違えばあまり訓練にはなりません。

出来れば、自宅に近い環境でADLを行うのが訓練効果を発揮できるのではないでしょうか。

もちろん、転倒リスクなどに配慮する必要があります。

私の勤務している病院での取り組み

リハビリでやっている訓練が、その場限りのものになってはもったいないですよね。

病棟内ADLでの実用化→自宅での実用化というのが理想ではありますが、
病棟内でも時間がないから介助することや、転倒が怖いから、
過剰な介助をしてしまうなどのケースも見られます。

ここの問題は難しい所でもあります。

理想であれば、看護師にもFIMなどでADL評価をしっかりしてもらい
セラピストと情報共有を行って安全に「病棟内リハビリ」を行って欲しい所です。

私の勤務する病院では、主任や経験年数の高いセラピストが
「脳外病棟」「整形病棟」など各病棟に専従のセラピストとして
配置されています。

そのセラピストが担当のセラピストの情報をもとに、
病棟看護師と情報共有を行い、安全に病棟内でのADLの実用化が
行われるような対策を取っています。

これが行われるようになってから、病棟内での移動時の転倒などの
インシデントは減少傾向にあるようです。

病棟の看護師側も転倒は怖いと思います。

セラピスト・看護師間の情報共有が上手くいけば、
お互いにストレスも感じませんし、安全にADLの実用化ができると思います。

 

まとめ

今回は、『あなたのADL訓練は「できる」?「している」?どっち?』
というお題で記事を書かせて頂きました。

担当している対象者の訓練も悩みどころではあるのですが、
できる所を、本人の実生活に落とし込んでいくということも大切だと思います。

この記事が皆さんのお役に立てれば幸いです。