起立性低血圧とシェロングテストについて分かりやすく解説




こんにちは。作業療法士のトアルです。

急性期病院に勤務していると頻繁にみる症状に「起立性低血圧」があります。

ですが「起立性低血圧っていったい何?」と聞かれて
あなたはすぐに答える答えることができるでしょうか?

臨床で分かっていそうで分かっていないことって色々あると思いますが、
「起立性低血圧」もその一つではないでしょうか。

そこで、今回は「起立性低血圧」と、その検査法「シェロングテスト」について解説します。

では以下に解説していきます。

起立性低血圧とは

起立性低血圧(Orthostatic hypotension)の定義は以下のようになります。

とされています。

定義をよく見ると、血圧低下の具体的な数値も決められているんですね。

そして、起立性低血圧の主な症状には、脳血管灌流量の低下による
「めまい」「耳鳴り」「浮遊感」「失神」があります。

※急に立ち上がった時に生じる「立ちくらみ」も血圧の低下がみられれば起立性低血圧に含まれます。

 

起立性低血圧の原因

血液には重さがあるため、立位姿勢では重力によって下肢へ移動します。
健常人であれば、立ち続けても血液が下半身にたまらず脳に行く血液も保たれています。

これは、起立時に血圧を自動調節する機能(圧受容器反射系)が働いているためです。
この受容器は大動脈頸動脈洞に存在し、交感神経により支配されています。

この調整機構により、反射的に「心拍数増加」「心臓の収縮」「末梢血管の抵抗」が高まり
下肢へ血液が溜まることを防ぐことができます。

そして、起立時には下肢や体幹の筋収縮も静脈の還流を助けます。

しかし、長期の臥床状態が続くと、この圧受容反射系機能が十分に働かなくなるため
起立性低血圧が生じるとされています。

起立性低血圧が起こるとどんなリスクがあるのでしょうか?

↓長期臥床での循環器系の低下の仕組みについて知りたい方はこの記事を参考にしてみて下さい。

 

起立性低血圧のリスク

起立性低血圧により血圧が脳血流の自動調整能の閾値以下になると、

眼前暗転 → 下肢脱力 → 失神

の過程を辿ります。

失神により転倒するリスクがあるため、リハビリ介入時は注意が必要です。

 

病棟ADLで起立性低血圧の起こりやすい状況

患者さんの状態によって異なりますが、病棟内ADLでは以下の場合に血圧が低下しやすく、
失神による転倒に注意が必要です。

【食後】
食事を摂取すると、消化管の血流が大幅に増大するため血圧低下が起こりやすく注意が必要です。

【排便後】
便を出すために力を入れると副交感神経が興奮するため、反対に交感神経が抑制され、
血管の収縮が起こりにくく血圧が低下しやすくなります。

【就寝後】
就寝中は副交感神経が優位に活動し、血圧調整機構が低下するため、
起床時に起立性低血圧を起こしやすくなります。
就寝の途中のトイレや 朝起きたときに血圧が低下しやすくなります。

【入浴後】
浴槽につかり体に水圧がかかると、手足の血液が押し戻され、血圧が高い状態になります。
浴槽から出る場合には水圧がなくなり、末梢の手足に血液が流れ血圧が低下しやすくなります。

 

起立性低血圧の予防法

臥床期間が長いと、起立性低血圧になりやすいことが知られています。

リハビリで端座位や立位訓練を行うときは、徐々にヘッドアップを行い長座位に移行します。

本人が自分の意志でゆっくりと、身体を支えようとしながらであれば、
長座位までは血圧は下がりにくいと言われています。

しかし、下肢を下げ端座位になると血圧が下がりやすいため注意が必要です。
起立性低血圧の予防のためには1日3回は端座位を行うのが好ましいとされています。

運動療法では「骨格筋ポンプ作用」を利用するものがあり、静脈循環量を増加させるため
足関節を中心とした自動運動を実施します。

臥位では足関節の底背屈運動や立位ではカーフレイズが有効とされています。

↓骨格筋ポンプについての解説はこちらの記事を参考にしてみて下さい。

また、その他の方法として
血液が貯留しないように弾性ストッキングを履いたり、弾性包帯を巻いたりします。
両下肢へこれらのものを着用することで、下肢方向に血流が貯留するのを予防できます。

 

起立性低血圧への緊急時の対処法

起立性低血圧への緊急時の対処法として以下の方法があります。

臥床状態へ戻し頭を下げ、頭の高さを心臓の高さと同じにします。
心臓方向へ下肢の血液を戻すため足を高く上げるようにします。

起立性低血圧については理解できたでしょうか?

続いて「シェロングテスト」についての解説を行います。

 

シェロングテストの試験方法

シェロングテストは以下のような方法で検査を行っていきます。

① 10分間の安静臥床を行います。
(10分後に2回血圧・脈拍測定し変動が無い事を確認。)

② 立ち上がりから立位(できなければ、端座位)を行いバイタル測定を開始します。

【バイタル測定】
測定時間は起立直後、起立から3分後、起立から5分後に行います。
血圧が下がっているようなら10分、15分、20分と改善するまで測定します。
これは、改善経過まで評価するためです。

※ただし、起立性低血圧症状がでるなら検査は中止します。
※立位での形態(杖、歩行器などを使用する際はカルテに記載します)

診断方法

下記の症状があれば起立性低血圧と診断します。

・立ちくらみ、ふらつき感、目の前の暗黒感などの起立性低血圧症状が出た場合。
・起立時に20mmHg以上の収縮期血圧の低下が出た場合。

中止する場合

下記の症状があればシェロングテストを中止します。

・極端の血圧低下による意識障害にて安全を保てない場合。
・検査の理解が得られず、検査を行えない場合。
・立位後の血圧改善に20分以上を要す場合。

注意すること

1. 安全を最優先に検査を行う。
2. 会話はなるべく行わないようにする。
3. なるべく静かな環境。
4. 立位・端座位ではなるべく寄り掛かったりしない。(検査開始に伴い姿勢の崩れなど)
5. 検査中は興奮するような話しかけやテレビを見ない。(心拍数増加がでるため)

 

まとめ

今回は、起立性低血圧とシェロングテストについて解説させて頂きました。
臨床では高齢で、長期臥床が続く方に見られやすい傾向があります。

他にも既往にパーキンソン病、脳梗塞(急性期)、脊髄損傷の方にもみられることがあります。
介入前後でのバイタル測定、介入中の状態の変化には注意を払うようにしましょう。

↓長期臥床での循環器系の低下の仕組みについて知りたい方はこの記事を参考にしてみて下さい。

この記事が皆様のご参考になれば幸いです。