廃用症候群の循環器系への悪影響について作業療法士が解説




こんにちは。作業療法士のトアルです。

前回は「廃用症候群の呼吸器系への悪影響」について解説させて頂きました。

早期離床は「廃用症候群」を予防する目的で行われるものですが、
内容が多岐に渡るので、量が多くなり分かりにくいと思ます。

理解しやすくするには、器官別に系統立てて覚えるのが楽だと思います。

臥床の悪影響の分け方は大きく分けて4つ。
「呼吸器系」「循環器系」「消化器系」「骨格筋系」になります。

今回は「循環器系への廃用症候群の悪影響」について取り上げようと思います。

起立性低血圧は寝た瞬間から始まる


上のタイトルにもあるように、実は患者さんを初めて寝かせた時から
起立性低血圧は始まります。

人は座位や立位から臥位になると、重力の影響から解放され、
下半身にあった血液が上半身へと移動します。

このとき下半身から上半身へと移動する体液量は2Ⅼとも言われています。
(離床したときの上半身から下半身への移動と混同しないように!)

上半身への血流が多くなると、中心動脈や頚動脈・大動脈弓に存在する
圧受容器が働くため、体は「体液が過剰」と判断してしまいます。

そうすると、交感神経が抑制され、利尿が促進されます。
これは相対的に副交感神経が刺激されるためです。

実はこの現象は大きな問題となります。

この反応は意志とは関係なく、反射的に行われるため実際は体液が過剰ではないのに
利尿が促進され、全体の水分バランスは負の方向に傾いてしまいます。

つまり、長期臥床している患者さんは、常に軽い脱水状態にあるといえます。

 

脱水から失神が起こるメカニズム


では、この軽度の脱水状態で上体を起こすとどうなるでしょう?

臥位から座位へ上体を起こすことで体液は下半身へ移動します。
この現象は水分が負のバランス状態でも当然起こります。

この時に、移動する体液量は利尿が進んだ分を差し引いても約700mlと言われています。

当然、このままだと上半身にあったはずの血液が重力に従い下半身に移動し、
血圧が低下してしまい「失神」を起こします。

このような急激な血圧低下を防ぐためのメカニズムを生体は持っています。
その反応は4つあります。

1.心肺圧受容器反射
2.動脈圧受容器反射
3.末梢血管・脳化学受容器反射
4.Venoarterial reflex

それぞれを以下に詳しく解説していきます。

失神を防ぐ生体のメカニズム


臥位から座位に姿勢が変わることで、約700mlの血液が下半身に移動します。
そうすると、心臓への循環血液量も減少してしまいます。

このときの心臓への循環血液量の減少は約30%といわれ、これにより心拍出量も低下します。

この循環動態の変化に対応するため、圧受容器反射が亢進し末梢血管を収縮させ
適切な血圧を保とうとします。

生体にはこのような血圧調整の機能が備わっており代表的な4つを紹介しようと思います。

1.心肺圧受容器反射

血液が下半身へ移動し、上半身の血液量が減少すると、上で述べたように、
循環静脈還流が減少します。

すると、心臓の心房や肺の血管に存在する圧受容器が反応し、交感神経を亢進させます。
生体は交感神経の活動が高まることで、血圧低下を抑制し失神を防ぐのです。

2.動脈圧受容器反射

血圧低下によって動脈圧が低下すると、頸動脈洞大動脈弓部にある受容器が働きます。
それぞれ「頸動脈圧受容器」「大動脈圧受容器」と呼ばれます。

血圧が低下すると、これらを支配している迷走神経の興奮が抑制されます。
興奮が抑制されたことは、神経を介して上行し延髄の血管運動中枢に伝わります。

すると脳は「血圧が低下している。これはまずい!」と感知し、
交感神経を亢進させ血圧低下を防ぎます。

この反応は血圧低下時の初動の反応になります。

理解するミソは迷走神経(副交感神経)の興奮が抑制されて交感神経を亢進させることです。
ダイレクトに交感神経を亢進させるわけではないんですね。

3.末梢血管・脳化学受容器反射

動脈圧受容器反射では血圧低下が止まらない場合には
抹消血管や脳の化学受容器が働き、交感神経を亢進させ血圧低下を防ぎます。

化学受容器には大動脈弓にある「大動脈小体」と頸動脈にある「頸動脈小体」があります。
これらは、動脈血中の酸素分圧とPHの低下や二酸化炭素分圧の上昇を感知して
血圧の調整を行います。

4.Venoarterial reflex

皮膚や骨格筋での静脈の伸張刺激が同じ部位の動脈収縮を引き起こし、
血圧の低下を防ぎます。

この4つの反応でも血圧低下を防止できない場合「失神」が起きます。

「失神」のメカニズムは離床で下半身に血液が取られるためだけで、
生じるのではなく、臥床初期にみられる「循環器血液量全体の減少」
元になって引き起こされるのです。

循環器のバイタルで現れる数値の変化


循環血液量の減少は、起立性低起立耐性の低下だけでなく、
他の循環器系のバイタルの数値の変化としても現れます。

心拍数・血圧の数値の変化

長期の臥床で利尿が進むまでの初期には、上半身の血液が多いことを受けて、
血圧は上昇し、心拍数は低下します。
利尿が進むと循環血液量の減少と共に血圧が低下し心拍数は上昇します。

しかし、近年の実験では 心拍数は他のバイタルの数値に比べ、安静臥床の影響を受けにくく、
利尿が進んだ後も安静臥床前とあまり変化はないとの報告もあり、
臨床では実際の患者さんの状態をチェックして判断する必要があると思います。

中心静脈圧の数値の変化

臥位姿勢により上半身に血液が集まるため、臥床初期は数値の上昇がみられますが、
利尿の促進と共に、今度は安静臥床開始前の値を超えてさらに低下するといわれています。

一回拍出量の数値の変化

臥床の初期には「Frank-Starlingの法則」により流入する血液量の増大に伴って増加します。

しかし、圧受容器が反応し、利尿の促進と共に心臓に流入する血液量が減少していくため
1回拍出量も減少します。

総体液量の変化

臥位になっても体に含まれる体液量は変わりません。
そのため利尿の促進と共に総体液量は減少します。
それに伴い、体重の減少も見られるという事になります。

全身持久性の変化

全身持久力は最大酸素量の摂取の変化によって評価できます。

Taylorらの実験で3週間の安静臥床後の最大酸素摂取量の測定を行いました。
その結果、被験者2名の最大酸素摂取量は平均で17%の減少していたことが
分かり、安静臥床による全身持久力低下が証明さたそうです。

この結果は、その後SaltinやConvertinoらによって追証されています。

これらの実験により「何となく臥床は体に悪いという」イメージだけの判断だけではなく
「安静臥床によって全身持久性は低下する」という科学的な証明になったんですね 。

 

まとめ

今回は「循環器系への廃用症候群の悪影響」について解説させていただきました。

内容を簡単にまとめると、臥位状態では、上半身に血液が移動することで、
圧受容器が反応し利尿を進めてしまうため軽い脱水状態になります。

これが基盤となって全身の循環血液量が減少し離床により
血圧が低下しやすい状態になるというわけです。

こういった事態を未然に防ぐためには早期離床を行い、
交感神経の活動を賦活させ循環血液量を保つことが必要なんですね。

この記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。