脳血流を維持する機能、「脳血流自動調整能」について解説




 

こんにちは。作業療法士のトアルです。

 

脳というのはとても大切な器官だということは皆さんも知っていると思います。
脳への血流が途絶えると、栄養や酸素が足りず虚血となり
深刻なダメージが生じます。

 

そのため、脳には自動的に血流を維持する機能が存在します。
これは脳血流自動調整能(Autoregulation)と呼ばれます。

 

脳卒中を発症した場合、この機能が破綻する可能性があり、
リハビリではこれに対応する知識が必要になります。

 

今回の記事ではその機能と注意点について解説しようと思います。

 

脳血流自動調整能(Autoregulation)の機能

脳血流自動調整能(Autoregulation)とは血圧が変化しても
頭蓋内の容積と圧が一定になるように調節する機能です。

平均血圧が60~160㎜hgの間であれば、脳血流は一定に保たれると言われています。
脳血流を一定に保つことができる血圧の範囲には上限下限があります。

脳血流自動調整能の下限より血圧が下がると脳虚血の症状が出現します。

 

側副血行路への理解

脳血流を理解するには側副血行路についての知識が必要です。
脳血流は主幹動脈だけで維持されているわけではありません。

側副血行路にはどういった種類のものがあるのか、
また、どういう状態で側副血行路の血流が不良になるのかを
理解しましょう。

 

側副血行路の種類

脳の側副血行の回路は3種類あります。

1.頭蓋外と頭蓋内の動脈をつなぐ経路
→ 外頚動脈系と内頚動脈系の吻合。

2.Willis動脈輪
→ 左右の内頚動脈と左右の椎骨動脈が吻合している経路。

3.脳軟膜動脈吻合
→ 脳主幹動脈の前大脳動脈・中大脳動脈・後大脳動脈の間の吻合。

 

側副血行路の血流が不良になる原因

側副血行不良に関わる因子として、以下のものがあげられます。

・脱水状態
・血液粘調度上昇
・高体温
・感染症
・心不全
・肺機能障害
・高血糖
・電解質異常
・腎機能不全
・降圧薬の過量投与
・広範な脳動脈硬化
・先天的な側副血行形成不全

などがあります。

どの場合でも血流を悪化させ、脳虚血の原因になるため
リハビリ訓練前に既往や使用している薬剤の確認が必要です。

まれに頭蓋内の主幹動脈が閉塞しても症状が出ないことがあります。
実は症状が出ない場合は幸いにも、側副血行路が
脳の細い動脈に発達しており、虚血にならずに済んだためです。

 

血圧変化へのリハビリ時のリスク管理

脳卒中患者さんのリハビリ訓練では進行・再発の防止対策が必要です。
特に何に気を付けるかというと「血圧変化」になります。

まずは、血圧を決定する因子について理解するようにしましょう。
それには以下の3つがあります。

1.心臓のポンプ力
2.全身の血液循環量
3.末梢血管抵抗

があります。

それぞれについて、説明していきましょう。

 

1.心臓のポンプ力

心臓のポンプ力低下による血圧低下は心不全や心筋梗塞などで生じます。
心エコー検査の結果のEF値(駆出量)で左室機能を確認します。

 

2.全身の血液循環量

全身の循環血液量低下の原因として、脱水上大静脈の虚脱などが考えられます。
脱水に関しては生検値、上大静脈については心エコーで確認します。

 

3.末梢血管抵抗

脳卒中後は末梢血管抵抗の反射低下で低血圧がみられる場合があります。

早期のリハビリは末梢血管抵抗反射の低下を生じさせないために重要です。
実際の訓練内容としては能動的な端座位や立位の開始を行います。

リハビリ時は、血圧の管理や症状をみながらフィジカルアセスメントを
行いリスク管理を必要があります。

また、頸部動脈ステント留置後は内頚動脈(頸動脈洞)にある
血圧の圧受容器の刺激で反射性血圧低下の可能性があり注意が必要になります。

 

脳血流が低下しすぎるとどうなるか?

血行力学的な要因や側副血行路に依存し血流が保たれている場合、
血圧が自動調整能の下限より下がると脳梗塞を再発・進行させることになります。
これはリハビリの訓練の際に注意が必要になります。

低血圧による「脳貧血」は、

めまい感 → 網膜の循環低下による眼前暗黒 → 下肢体幹の脱力 → 失神

に至ります。

 

脳血流が上昇しすぎるとどうなるか

脳血流自動調整脳の上限を超えると、「ブレイクスルー」(breakethrough)をきたします。

ブレイクスルーとは血圧に依存して脳血流が増加した結果、
血液脳関門の破綻と血管透過性の亢進を招き、血管性浮腫を生じます。

高血圧性脳症などは、この機序によるものです。
症状として頭痛・嘔吐・意識障害・痙攣などを起こします。

これらは、画像上で可逆性の白質病変を呈します。
PRES(可逆性後部白質脳症症候群)とよばれ、
椎骨脳底動脈系支配領域の両側後頭葉白質や脳幹部に可逆性病変画像を呈します。

また、高度狭窄で血流が低下している状態の脳に治療で急激に血流が改善すると、
過還流となり脳血流が急速に増加し脳出血や脳浮腫になる場合があります。

 

心肺停止と脳血流での注意点

低酸素脳症は心肺停止に対する蘇生術後の患者で発生する場合がほとんどです。

軽度から重度まであり、回復がよい場合も動作性ミオクローヌスの可能性があります。
重度の場合、徐皮質硬直が多くみられ、MRI画像上で低酸素に弱い部分に異常所見がみられます。

その部位は

・両側の淡蒼球の低信号
・大脳皮質の層状壊
・側脳室・第三脳室の拡大

が確認できます。

心肺停止と脳血流の停止は必ずしも同じものではないです。

脳への血流が一度途絶えると、血流が全身で再開しても脳の抹消組織への再開が困難になります。
これをNon-reflow現象」といいます。

そのため、心肺停止状態でも、心臓マッサージを行うことで少しでも血流が保たれると
脳血流は回復する可能性があります。そのため心臓マッサージの技術は必要になります。

 

まとめ

脳卒中後の患者さんのリハビリでは
血圧管理とフィジカルアセスメントが重要になってきます。

急性期で生じるリスクをしっかり把握しておけば、
安全に離床することが可能になります。

事前の既往・生検データ・使用している薬剤などの
情報収集をしっかり行うようにしましょう。

この記事が皆さんのお役に立てれば幸いです。