手の「縦アーチ」について作業療法士が解説




 

こんにちは。作業療法士のトアルです。

前回は「手の横アーチ」について解説させて頂きました。

簡単に復習すると、「横アーチ」には2種類あり
「近位横アーチ」「遠位横アーチ」があります。

「近位横アーチ」は靱帯で強く結ばれておりアーチの構造は変化しません。
つまり「静的なアーチ」になります。

逆に「遠位横アーチ」は母指から小指までの中手骨頭で構成されており
可動性が高いアーチです。つまり「動的なアーチ」になります。

特に重要なのは母指と環指・中指の部分でこの部分が障害されると
「にぎり動作」が上手くできなくなります。

話を戻しますが、今回は3つあるアーチの2つ目
「縦アーチ」について解説させて頂きます。

 

縦アーチについて

「縦アーチ」を理解するには手を横から見る方が分かりやすいです

ほとんどの参考書では橈側側から見た図になります。

「中手骨」「基節骨」「中節骨」「末節骨」4つの骨構成になっており、
母指・示指・中指・環指・小指それぞれ1本ずつ存在するものです。
(母指は中節骨はありません。)

手を机の上に置いた安静肢位を観察すると、
MP関節を頂点に山のような稜線を描くと思います。

これが、いわゆる「縦アーチ」なのですが、
この山のような形は「外在筋」と「手内在筋」の自然張力で成り立っています。

「縦アーチ」は手指の動きにより変化する「動的なアーチ」になります。
一応各アーチが「動的」なのか「静的」なのかの表をのせておきます。

中手骨付近では「掌側骨間筋」「背側骨間筋」「虫様筋」などの「手内在筋」が
あるため、これらの筋に障害が生じると機能低下に直結してしまいます。

そのため安静にしていては評価するのが困難で、
動かしてみて初めて評価ができる「アーチ」であるといえます。

この「縦アーチ」の変化を見てみる分かりやすい例としては
手のひら大のボールを掴んだ時と、
手の中に握り込むことができるボールを掴んだ時に
観察できると思います。
(具体例でいうと野球ボールとピンポン玉とかになると思います。)

ボールという球形の形状でも、大きさが違えば「縦アーチ」の屈曲の度合いが
かなり変化するのが分かると思います。

つまり「にぎり動作」を行うために「縦アーチ」は大きく関係してきます。

上でも述べましたが「縦アーチ」を構成する要素として
「外在筋」と「手内在筋」の張力のバランスがとても重要な役割を果たしています。

これらが破綻するとどうなるのでしょうか?

 

イントリンシック・マイナス手とイントリンシック・プラス手について

「縦アーチ」では4つの「中手骨」「基節骨」「中節骨」「末節骨」が
動的に変化しながら目的とする動作を行います。

多くは「にぎり動作」になるのですが、
これには「外在筋」と「手内在筋」の協調性が必要になってきます。

それぞれが障害された時に生じる特徴的な手の形があります。

「手内在筋」が障害された場合を「イントリンシック・マイナス手」
「外在筋」が障害された場合を「イントリンシック・プラス手」
といいます。

以下に、それぞれについて解説していきます。

 

イントリンシック・マイナス手

イントリンシック・マイナス手は「手内在筋」が障害された時に生じます。

手の形としては「MP関節過伸展-PIP関節屈曲-DIP関節屈曲」になります。
何かをひっかくような形になりますね。
では、なぜこのような形になるのでしょうか?

 

イントリンシック・マイナス手の機序

「手内在筋」が麻痺した状態で、指を開こうとすると指はうまく開きません。
指を開くという動作は「手内在筋」と「外在筋」である手指の伸筋群が協調して働きます。

しかし、「手内在筋」が麻痺しているため
MP関節部では手指の外転ができず、「外在筋」である手指の伸筋群のみが働き
MP関節は伸展傾向を示します。

「手内在筋」はPIP関節やDIP関節を伸展させる作用もありますが、
これが麻痺している場合は伸展させるだけの筋力がなくなり、
手指の屈筋群も優位になります。

そのためPIP関節やDIP関節は屈曲位になります。

 

イントリンシック・プラス手

「イントリンシック・プラス手」は「外在筋」が障害された場合に生じます。

手の形としては「MP関節屈曲-PIP関節伸展-DIP関節伸展」になります。

次にこのような形になる理由を説明します。

 

イントリンシック・プラス手の機序

「手内在筋」が短縮したり、過緊張状態になる場合に出現します。
つまり「手内在筋」が優位に働きすぎた状態のことになります。

「手内在筋」はPIP関節やDIP関節を伸展させる作用がありますが、
筋が短縮や過緊張していると、筋の最大長が短くなり、
強制的にPIP関節・DIP関節が伸展位になります。

さらにMP関節屈曲位のときには通常、指伸筋が作用し手指全体が伸展しますが
「手内在筋」が緊張しているため伸展するのが困難になります※1

※1 MP関節屈曲位で指伸筋が働いて、手指全体が伸展するには手内在筋が緩んでいる必要があります。
逆にMP関節伸展位で手指全体を伸展するには指伸筋が緩み、手内在筋が働いている必要があります。

 

まとめ

今回は「縦アーチ」「イントリンシック・マイナス手・イントリンシック・プラス手」について
解説させて頂きました。

この記事が皆様のお役に立てれば幸いです。