「意味記憶とは?」その意味・解釈について作業療法士が解説




こんにちは。作業療法士のトアルです。

今回は「意味記憶」について解説させていただきます。

「意味記憶」は「長期記憶」に含まれます。

以前の記事で紹介した「記憶の貯蔵庫モデル」の中で3番目の過程にあたります。
「長期記憶」は3種類あり、以下のように分けられます。

・「意味記憶」
・「エピソード記憶」
・「手続き記憶」

今回は「長期記憶」の概要と、この3つの中の1つ「意味記憶」について解説していきます。

まずは長期記憶の概要について

「長期記憶」とは「記憶の貯蔵庫モデル」において最も多くの情報を、極めて長期間保持できる
とされる記憶のことです。

「エピソード記憶」と「意味記憶」は言葉で意識的に内容を説明することができるので
「顕在記憶」「宣言的記憶」と呼ばれることもあります。

一方「手続き記憶」は意識できず、言葉で説明するのが難しいため「潜在記憶」と呼ばれることがあります。

「顕在記憶」は「何であるか」(What)、「潜在記憶」は「どのように」(How)についての記憶とされています。

 

「意味記憶」とは世界について知っていること

皆さんは「ピザ」という食べ物を知っていますよね?

丸くて薄い生地の上にトマトソース 、チーズやサラミその他の様々なトッピングがのっていて、
釜で焼いて食べる食べ物のことです。

しかし、それを知ったのがいつだったか思い出せますか?おそらく、思い出せない人が多いと思います。

このように、その記憶をいつどこで知り得たのかということは関係なく、身の回りのことや世の中のことについての一般知識として蓄えられている記憶のことを「意味記憶」 と呼びます 。

ある物事を見たり聞いたりすると、それに関連することも思い出しやすくなることが知られています。

人の「意味記憶」は関連がある項目同士がリンクされ、結び付けられたネットワークを作っていると考えられています。

例えば「ピザ」という言葉を聞くと、ネットワーク中の「ピザ」に対応する項目が興奮し活性化します。

この興奮はリンクを辿って「ピザ」と関連がある他の項目に伝えられていき、その関連の項目も活性化していきます。これは名詞の意味だけにとどまらず、似たような音韻であったりする場合もあります。

この仕組みによって「ピザ」に関連する項目も思い出しやすくなると言われているのです。

この現象を身近な例でいうと「10回ゲーム」に当てはまります。

「ピザ」という言葉を10回連続で言ってもらい、「ここは?」と「ひじ」を指さすという遊びです。
大体の人が「ひざ」と言ってしまいます。

「ピザ」という言葉を聞くことで、それに関連する項目「ひざ」を思い出しやすくなるんですね。
それを利用した遊びの一種です。

エピソード記憶から意味記憶 へ

「エピソード記憶」(日常の出来事)の積み重ねが「意味記憶」につながるという説があります。

この事を実証することはなかなか難しく、そのことを証明した研究も少ないという現状があります。
その数少ない研究の一つがリントン(Linton,1982)の研究です。

彼女は、自分自身に起こった出来事を6年間記録しました。この間に蓄積された出来事の記録の中から、
毎月ランダムに取り出した2つの出来事の時間的順序や、それぞれの出来事の日付を思い出す試みを行いました。

この研究の結果、似たような出来事を繰り返し体験すると、その出来事の詳細は区別しにくくなり、最後にはエピソード記憶は消滅してしまうことがわかりました。

しかし、似たような出来事を繰り返した場合、その出来事や起こった経緯、結果などの意味的・一般的知識を増加させていき、結果として知識の中に取り込まれてしまうということがわかりました。

 

意味記憶の検査法「再生法」と「再認法」

では、意味記憶はどのようにして調べることができるのでしょうか?

「意味記憶」の調べ方は、意識的に「想起」してもらうことです。
その方法は2つあり『再生法』『再認法』があります。

「再生法」は以前に学習した事柄を再現する方法であり、学習した順序通り再現する「系列再生法」と、
順序に関係なく自由に再生する「自由再生法」、さらに、提示された手がかりをもとに再生する
「手がかり再生法」があります。

『再認法』では、すでに提示された事柄と提示していない事柄を提示し、提示されたものかそうでないものかの区別が求められます。

これらは「意味記憶」だけでなく「エピソード記憶」でも同様な検査方法で行うことが可能です。

HDS-Rなどの項目9で野菜の名前を上げるなどでも用いられるので、
作業療法士にとってはお馴染みかもしれません。

 

まとめ

今回は「意味記憶」について解説させていただきました。

まとめると「意味記憶」とは言葉で意識的に内容を説明することができる「顕在記憶」と呼ばれるもので、一般的なことに対する知識になります。

上でも上げたように1つの説ではあるのですが、この「意味記憶」の形成には「エピソード記憶」が重要なカギを握っているとされています。

試験などで高得点を上げたい、記憶力を良くしたいと考えている人にとって意味記憶とエピソード記憶の関係を知ることはとても大切な事なんですね。

意味記憶の検査方法を応用すれば、認知症の方に病棟でのナースコールの使用や、患者さんの部屋の場所などを文字や絵などで「手がかり」を提示することで想起できる可能性があるので一度試してもいいかと思います。

また、認知症の方に、経験則で文字や絵などを提示することで想起を促すことが有効とはわかっていても、その根拠がわからないと、他職種に理解されない事もあります。

ですが、このとき「心理学ではこういう理論があるんですよ」と提示すると納得してもらえることもあります。

学問上の知識や権威って大切だと感じます。

この記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。