廃用症候群の呼吸器系への悪影響について作業療法士が解説




こんにちは。作業療法士のトアルです。

前回は、急性期病院における早期離床の必要性について解説させて頂きました。
早期離床は臥床(寝たきり)による「廃用症候群」を予防する目的で行われるものです。

ですが、内容が多岐に渡るので、理解するのに時間がかかります。
一番わかりやすいのは、臥床(寝たきり)が身体の器官別にどういった悪影響が出るのかを分け、
系統立てて覚えるのが楽だと思います。

臥床の悪影響は分け方は大きく分けて4つあり
「呼吸器系」「循環器系」「消化器系」「骨格筋系」になります。

今回は「呼吸器系への廃用症候群の悪影響」について取り上げようと思います。

長期臥床は酸素化を低下させる

長期の臥床姿勢は酸素化を低下させます。
理由は「寝たままだと、肺が効率的に膨らむことができないから」です。

その原因を3つに分けて考えます。
1.ベッドの圧迫による胸郭運動の制限
2.臓器の重みによる横隔膜運動の制限
3.FRC(機能的残気量)の臥位による機能低下

1.ベッドの圧迫による胸郭運動の制限

臥位で上を向いて呼吸している様子をみると、胸郭が上下に大きく動いているので
ぱっと見はたくさん空気が入っているように見えます。

しかし、肺は背中側の「下葉」の部分が酸素化に大きく関係していて、
臥位のままだと、背中にベッドがあるため後方の部分が大きく広がることができません。

そのため空気を吸い込む量が減少し、酸素化の低下を招きます。

2.臓器の重みによる横隔膜運動の制限

呼吸のために胸郭を動かす主要な筋肉として「横隔膜」が有名ですが、
臥位の姿勢では横隔膜の運動は妨げられます。

横隔膜は胸腔と腹腔を隔てていて、尾側に下がることで胸郭を広げるという機能を果たします。

立位姿勢だと腹腔内にある臓器は重力の影響で下方に下がり、横隔膜の運動は大きく動けるのですが、
臥位の姿勢だと腹腔内臓器が頭側へ移動するため、背側横隔膜の上に乗る形となり、
横隔膜運動を妨げてしまいます。

そのため空気が上手くとりこめず酸素化が低下します。

3.FRC(機能的残気量)の臥位による機能低下

FRC とは 「functional residual capacity 」の略語で、
日本語でいうと「機能的残気量」のことです

簡単にいうと、自然に呼吸を行った後に肺内に残っている残気量のことで、
肺のガス交換に関わる空気の量を表します 。

FRCを忘れたという方のためにも「肺気量分画」の図をのせときます。


wikipediaより出典(一部改変)

FRC が多ければ、ガス交換に参加できる空気の量が多いため、酸素化に有利になります。

しかし、急性呼吸切迫性症候群(ARDS)や急性肺障害(ALI)など、肺胞が潰れてしまう疾患の場合
FRCが少ないため酸素化が低下します。

人工呼吸器で陽圧をかけて肺を保護する治療法がありますが、これはFRCを保って
酸素化をよくする目的があります。

下の表は姿勢の変化による肺機能の変化を示しています。
TLC(全肺気量)、RV(残気量)は、臥位・座位・立位でもほぼ不変ですが、
FRC(機能的残気量) は姿勢によって大きく変化します。

FRC(機能的残気量) は、立位から臥位になると半分近く減少します。

このことから、長期の臥位姿勢が呼吸系に悪影響を及ぼし、酸素化を低下させることがわかります。

その他の影響因子

FRC(機能的残気量)は上記以外の様々な要因によっても減少します。

例えば、外科手術後の方であれば、麻酔薬や筋弛緩薬を投与されており、
筋肉である横隔膜も影響を受けてしまい、緊張が低下し換気効率が悪くなります。

また術後の創部の疼痛により、呼吸が浅く早いパターンとなり換気効率が悪くなってしまいます。
また、呼吸筋の活動が活発になり呼吸仕事量を増大させ、呼吸困難感や酸素化の低下となります。

寝たきりによる肺気量分画のパラメーター変化

補足として、臥位姿勢になることで肺気量分画のパラメータがどう変化するのかを
載せておきたいと思います。

呼吸数・1回換気量

Saltinらの実験では、約20日間の安静臥床で呼吸数は増加し、1回換気量は減少するそうです。

理由としては、臥位になると上半身の血液量が増加し、肺内の血液量は増加します。
そうすると横隔膜の頭側(上側)への偏移がかかってしまいます。

こうなると寝ている状態で肺側のボリュームが大きくなってしまい、
横隔膜が下側に常に押されている状態になり上下の運動が大きく阻害されてしまうんですね。

その結果、肺胸部系のコンプライアンス(伸展)制限が起き、呼吸数を多くし代償しようとします。
呼吸数が多くなれば換気量も減り、浅い呼吸になってしまうと考えられています。

全肺気量・努力肺活量・1秒量

Saltinらの研究によると、TLC(全肺気量)・努力肺活量・1秒量は安静臥床による
変化を受けないと報告されています。

 

まとめ

今回は「呼吸器系への廃用症候群の悪影響」について解説させていただきました。

臥位状態では、胸郭や横隔膜の動きが制限され、さらにFRC(機能的残気量)の低下が起き
酸素化が低下するという事が理解できたのではないかと思います。

既往にCOPDなどの呼吸器疾患があれば、酸素化の改善が中々うまくいかないという事は
臨床でもよく遭遇します。

これに臥床による酸素化低下が加わると、治療に時間がかかってしまいます。
こういった事態を未然に防ぐためにも早期離床は必要なんですね。

この記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。