廃用症候群の筋骨格系への悪影響について作業療法士が解説




こんにちは。作業療法士のトアルです。

前回は「廃用症候群の循環器系への悪影響」について解説させて頂きました。

臥床による悪影響の分け方は大きく分けて4つ。
「呼吸器系」「循環器系」「消化器系」「骨格筋系」になります。

今回は「筋骨格系への廃用症候群の悪影響」について取り上げようと思います。

抗重力筋の筋力低下

高齢の方が寝たきりになると筋力が低下するというのは知っていると思いますが、
若い方でも安静臥床期間が長いと高齢の方と同様に筋力は低下します。

この臥床による筋力低下なのですが、全ての筋肉が同様に
筋力低下を起こすわけではありません。

低下しやすい筋肉というのがあり、脊柱起立筋下腿三頭筋といった
「抗重力筋」と呼ばれる筋肉が低下しやすいという特徴があります。

この「抗重力筋」は無意識で姿勢を保持するときに使われています。
重力に引かれて倒れないように自然に収縮しているんですね。

しかし、寝たきりになると「抗重力筋」は収縮する機会を失うため
他の筋肉に比べて優位に筋力低下を起こします。

寝たきりで筋力低下を起こす筋肉(抗重力筋)の種類は
持久力の発揮に有利「TypeⅠ繊維」と呼ばれる筋肉です。

この筋肉は収縮する速さが遅いことから「遅筋」と呼ばれています。

逆に上腕二頭筋のように筋肉は瞬発力の発揮に有利な「TypeⅡ繊維」
呼ばれる筋肉になります。

これらの筋肉は収縮速度が速いことから「速筋」と呼ばれています。

実は、寝たきりになると「遅筋」が「速筋」に変性してしまいます。
この事は、実験からも分かっています。

重力に対抗し姿勢を保持する機会が減少すると「抗重力筋」は遅筋としての
役割を必要としなくなるため、速筋に変わろうと判断し環境に適応するから
と考えられています。

筋力低下には筋タンパク質の代謝も影響

筋肉はタンパク質からなる筋原線維(アクチン・ミオシン)で構成されています。

筋力を維持するためには、タンパク質の「合成」と「分解」がバランスよく
行われ、ある程度の筋容量を保つことが必要になってきます。

ですが、寝たきりになると代謝のバランスが崩れ、タンパク質の分解が進んでしまいます。
タンパク質の「合成」より「分解」が優位に進むことで、筋容量が少なくなり、
機能としての筋力が低下するのです。

安静臥床による筋力低下のメカニズム

では、安静臥床でどのくらいの筋力低下が生じるのでしょうか?

Brownらは実験として、宙吊りにしたラットの後ろ足を浮かせて、
安静臥床と同じように筋肉を不使用の状態にしました。

その結果、筋容量は14日間で6割程度に低下したと報告しています。

また、被験者が人間の実験においても、筋容量の減少は認められており、
20日間の臥床で膝屈曲・伸展横断面積が7%減少したと報告されています。

筋力と相関のある筋横断面積の減少を見ても、長期臥床が筋力低下を
引き起こす原因と考えられます 。

まとめ

今回は「骨格筋系への廃用症候群の悪影響」について解説させていただきました。

まとめとしては、長期臥床によって姿勢保持に必要な抗重力筋(遅筋)が変性し、
結果的に座位保持や立位保持の持久性がなくなってしまうことや、
筋肉の不使用によりタンパク質の分解が進み筋力低下が生じます。

早期離床では安静度の許す範囲で可能な限り早く離床を行います。
これは、できるだけ早く抗重力活動を行ってもらい、筋肉の不使用期間が長くならないように
する必要があるからなんですね。

この記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。