認知症・せん妄・うつ病の基礎知識(病態・アセスメント編)




 

こんにちは。作業療法士のトアルです。

 

前回に引き続き、認知症・せん妄・うつ病の病態と実際のアセスメントについて
解説させて頂きます。

 

アセスメントで重要なのは脳の機能が

①「意識の問題」 ②「知能の問題」 ③「気分の問題」 ④「心理的問題」

の4つのどの部分に問題があるか推測することが必要であることは述べました。

上記の問題点のどこに当てはまれば疾患を見極められるか?
具体的な方法について解説します。

※心理的問題については、別の精神障害となるため今回は割愛させて頂きます。

 

せん妄・認知症・うつ病の概念

「せん妄」「認知症」「うつ病」の概念について解説していきます。
その前に、下の図を少し見て下さい。

脳の機能の問題点と3つの疾患の対応表です。

もし下位の方に障害があれば、上位の問題も出現してきます。

これらの内容について以下に解説していきます。

 

せん妄の概要

せん妄は「意識の問題」になります。

原因としては、脳の器質的な脆弱性があった上に、複数の要因による身体的負荷が
加わって脳の活動が破綻した状態です。

せん妄の詳しい病態生理は明確にされていませんが、身体疾患が軽快すれば
精神症状も改善するという経過をたどることが多いです。

 

せん妄の症状

脳が十分に機能していないため、周囲の状況が把握できず適切な反応ができません。
「意識の問題」があるためですね。

何をするにも注意が散漫で、少しの刺激にも過敏に反応します。
行動や言語にもまとまりがなく、話は辻褄が合わず次々に飛びます。

脳の機能も十分に発揮できないため記憶ができず、判断能力は落ちます。

そのため、感情に上手く折り合いをつけられず、
「抑うつ」や「不安」といった「気分の問題」が出現します。

結果的に周囲への適切な反応もできなくなります。

 

認知症の概念

認知症は「知能の問題」になります。

脳が器質的な障害を負うことで、成長の過程で獲得したあらゆる知能が
回復できない所まで損なわれた状態をいいます。

ざっくりいうと、脳の神経細胞が何らかの原因で脱落・損傷してしまい、
その結果として「知能」が低下してしまった状態です。

 

認知症の症状

脳の機能でみると、先にも述べたように「知能」の低下が見られます。
しかし「注意力」は比較的正常に保たれていることが多いです。

会話はある程度まとまっており、話の筋は通ります。行動もある程度一貫しています。
(「~をしよう・したい」という目的を持った行動はとれます。)

ですが、知能の低下はみられるため、

・記憶低下 (短期記憶低下)
・段取りをつける能力 (遂行能力低下)

・言語を操る機能 (失語)
・物事をとらえる機能 (失認)

がみられます。

下位の脳機能である「知能」が障害されているため、
それより高次の機能である「気分」の障害も出現します。

つまり、「抑うつ」や「不安」症状がも出ることもあります。

 

うつ病の概念

うつ病とは「気分の問題」です。

「気分」とは、人生の中で経験してきた出来事が、その人にどう判断されたかの結果です。
ある出来事に対する捉え方で「感情」がどう動いてきたかということです。
(抽象的で難しいですよね…。)

その捉え方が、現実に起こっている事と乖離があるほど、絶望的・悲観的になります。
そして、結果的に病的な状態になる場合を「うつ病」とします。

 

アセスメントの手順

次に、どのようにアセスメントを進めていくのかについて説明します。
今一度、上記3疾患についてのまとめをすると以下のようになります。

精神症状は疾患と必ず「対」の関係になりません。

例えば「抑うつ」=「うつ病」とは限らないということになります。
理由としては脳の下位の機能が障害すれば、上位の機能も障害されるためです。

何度も言いますが、アセスメントにはどの段階の問題かを判断することが重要です。

例えば「抑うつ」があるかもしれないと仮定します。

もし、「抑うつ」がみられ、「記憶障害」もあり「注意力」低下がみられたとします。
その場合は「せん妄」が疑われます。

また、「抑うつ」があって、「記憶障害」もありますが「注意力」は問題がない場合。
この場合は「認知症」の疑いがあります。

「抑うつ」がみられるが、「記憶力」「注意力」には問題がない場合。
このときに初めて「うつ病」を考慮します。

 

つまり『症状がある』だけでアセスメントは不十分で『症状がない』ことを確認する
必要があります。

これで初めてどの疾患か考えていくことになります。

 

ポイントとしては「何か変だ。」と思った場合は以下の流れで考えてみて下さい。
(上の表と対応しています。)

① 「意識の問題」を調べる。
→ 注意力のアセスメント:例.まとまりのない行動は見られないか?
② 「記憶力の問題」を調べる。
→ 知能のアセスメント:例.記憶力は保たれているか?
③ 「気分の問題」を調べる。
→ 気分のアセスメント:例.意欲の低下があり、気落ちが続いている。

この流れに沿って考えていくと、どの疾患なのか判断しやすくなります。

 

まとめ

今回は「認知症・せん妄・うつ病の基礎知識(病態・アセスメント編)」について
解説させて頂きました。

まずは、前回お話しさせて頂いたように、
①「意識の問題」 ②「知能の問題」 ③「気分の問題」 ④「心理的問題」
の4つのどの部分に問題があるか推測することが必要になり、

続いて
① 「意識の問題」を調べる。→ 注意力のアセスメント (せん妄の評価)
② 「記憶力の問題」を調べる。→ 知能のアセスメント (認知症の評価)
③ 「気分の問題」を調べる。→ 気分のアセスメント (うつ病の評価)
を行っていきます。

④の心理的な問題については、また別の分野(パーソナリティ障害など)の分野になりますので
ここでは割愛させて頂きます。

順を追っていけば、そんなに難しいものでは無いと思います。

この記事が皆さんのお役に立てれば幸いです。

さらに詳細な内容が知りたい方は、
認知症・せん妄・うつ病の基礎知識(精神症状編)
を参考になさってみて下さい。