こんにちは。作業療法士のトアルです。
今回は母指についての基礎知識について解説させて頂きます。
母指は手の動作について主要な役割を果たし、約50%の手の作業に関与するといわれています。
つまり、母指は日常生活の動作の中で重要な役割を果たしています。
では、この母指はどのような機能を持っているのでしょうか?
母指の運動学
母指の運動は3つの関節で行われます。
・「第1手根中指関節」(TMC関節) →大菱形骨と第1中手骨で構成される。
・「中手指節関節」(MCP関節) →第1中手骨と基節骨で構成される。
・「指節間関節」(IP関節) →基節骨と末節骨により構成される。
になります。
これらの運動自由度は
・「第1手根中指関節」(TMC関節)の運動自由度は2
・「中手指節関節」(MCP関節) の運動自由度は2
・「指節間関節」(IP関節)の運動自由度は1になっています。
母指全体でみると、運動自由度は5となります。
これらの運動の合成で「ぶん回し運動」も可能になっています。
この母指の運動自由度を基盤として多様な機能を実現しています。
母指と前腕の肢位の関係
前腕の肢位は手の作業方向を決めます。
前腕の肢位により「中間位」「回外位」「回内位」での母指の肢位も変化していきます。
これは筋や靱帯の影響を受けて変化します。以下にこれらについて解説させて頂きます。
前腕中間位での母指
初めに、前腕の中間位と母指の関係を見ていきます。
ここで覚えていて欲しいのは第1中手骨と第2中手骨が向かい合っていて、
「ものを把持する肢位」を取るということです。
掌側側からのぞき込むと第1中手骨と第2中手骨はほぼ重なっているように見えます
もう少し細かく見ていくと、母指は重力の影響を受け、やや内転位かつ掌側外転位になります。
重力の影響を受け母指は見かけ上は下に下がり、母指のTMC関節周囲の軟部組織は
橈側・背側部の組織を伸長します。
背側側の筋に過緊張や短縮があると母指は橈側外転位を取ります。
反対に母指内転筋や母指球筋に萎縮があると尺側内転位を取るようになります。
前腕回外位での母指
次に前腕回外位と母指の関係を見て行きます。
あまり意識せずに前腕を回外位で机の上に置いて観察してみましょう。
そうすると前腕は完全な回外位にはならずに、約40~50°の肢位になります。
このときの手掌は顔の方向を向き、尺側方向へ軽度傾いています。
このときの母指を見ると、支えのない空間上にあるため
背側方向に重力に引かれ軽度橈側外転位となります。
そして、母指は母指球筋※1の自然張力をうけており過度に後方に落ちることはありません。
この肢位を大菱形骨から見ると、15°程度橈側に傾いているとされています。
前腕中間位での安静位での母指は掌側・橈側外転位45°とされています。
それを前提として前腕回外位を観察してみましょう。
この肢位では母指は掌側外転からやや内転方向になっています。
前腕中間位では母指は「ものを把持する」ような形をとっていましたが、
前腕回外位では「ものを掌の上で保持する」「何かをすくう」ような形になっています。
これは「非把握動作」に通じるものになると考えられます。
※1:短母指外転筋・短母指屈筋・母指対立筋・母指内転筋
前腕回内位での母指
次は、前腕回内位における手掌と母指の関係についてみてみます。
前腕回外位と同じように、前腕回内位で机の上に手をおいて母指を観察してみます。
このとき、母指は橈側が机に接触するように置かれます。
そのため、母指全体でみると机からの反力で伸展方向に、そして母指球筋の自然な張力で
内転方向に力が加わりますが、第1MP関節(CM関節)は軽度屈曲位を取ります。
つまり、前腕回内位でのこの状態は作業を行う前段階である
「機能的肢位」に近い状態をとります。
まとめ
今回は「母指の靱帯を覚えるには…前腕肢位と母指のヒミツ!」として解説させて頂きました。
安静肢位での前腕と母指の位置関係なので注意深く観察しないと
その変化は捉えにくいものでもあります。
しかし、前腕と母指との位置関係を知る事で
母指の機能解剖を知るきっかけになるのではないかと思います。
この記事が皆様のお役に立てれば幸いです。