こんにちは。作業療法士のトアルです。
今回は「サルコペニア」について解説させていただきたいと思います。
最近では、色々な健康食品のCMがテレビやネットで流れていますが、ここ2~3年の傾向として
「筋力向上」のサプリメントについてが多い印象を受けます。
CMの四隅をよく見ていないと、気付かないと思うのですが
大手の食品会社や薬品会社もこぞって参入しているようです。
「加齢による筋力低下」というキーワードは高齢者の方にとって、
かなり関心が高い項目なんですね。
さて、リハビリという視点で見るとどうでしょうか?
筋力低下が起きるとどうなるでしょう?
そう「転倒」ですよね。
では、転倒によるリスクとはなんでしょう?
そうです。 「骨折」や「頭部外傷」ですよね。
高齢者の方でこれらが生じてしまうと元のADLレベルに戻るのは困難です。
元々独歩自立の方が杖や歩行器を使用したりするケースは多いですし、
頭部をぶつけた事により高次脳障害を呈する場合もあります。
そうなってしまうと、確実に介助が必要な状態に陥ってしまいます。
なので、筋力低下予防→転倒予防というのはとても大切な事なのです。
そして、最近注目を集めているキーワードに「サルコペニア」という
言葉があります。
この「サルコペニア」具体的にどういう意味なのでしょうか?
今回は「サルコペニア」について詳しく取り上げていこうと思います。
サルコペニアとは何か?
「サルコペニア」とは、狭義では「加齢による筋肉量の減少」を意味し、
広義では「全ての原因による筋肉量の減少、筋力低下及び身体機能低下」を
意味する言葉です。
当初は加齢による筋肉量減少のみを「サルコペニア」と呼んでいました。
しかし、2010年のEWGSOP(European Working Group on Sarcopenia in Older People)の発表では、
「筋力低下もしくは身体機能低下を認めない筋肉量の減少の場合、サルコペニアとは呼ばない」
とされています。
EWGSOPでは「サルコペニアは進行性、全身性に認める筋肉量減少と筋力低下であり、
身体機能障害、生活の質(QOL)の低下、 死のリスクを伴う」と定義しています。
2014年に報告されたAWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)での発表でも
「筋力低下もしくは身体機能低下を認めない筋肉量減少の場合には、サルコペニアではない」
としています。
これらを踏まえると、狭義の意味での「機能低下が見られない筋肉量の減少」
ではなく、広義の意味での「サルコペニア」と捉えた方がいいかもしれません。
サルコペニア診断方法
左の図はEWGSOの定義したサルコペニアの診断基準の
フローチャートです。
まずスクリーニングとして「歩行速度」の評価を行います。
「歩行速度低下」や「握力低下」が存在し、さらに
「筋量の低下」もある場合にサルコペニアと診断します。
サルコペニアの診断には筋量の測定が必須になります。
握力は簡単に測定でき、下肢筋力ともよく相関するため、EWGSOPの診断に採用されています。
サルコペニア診断の基準値
【歩行速度について】
歩行速度は5フィート(2.48 m) や 6mコースで計測することが多いようです。
EWGSOPでは、通常歩行速度は0.8 m/sを基準値としています。
【握力測定について】
握力の日本人の基準値に関する統一した見解は得られていませんが、
下方ら1)は「男性25 kg 未満、女性20 kg 未満」をサルコペニアの基準値として提唱しています。
欧米ですと「男性30 kg 未満、女性20 kg 未満」が用いられています。
1):(下方浩史、安藤富士子:生活機能と骨格筋量、筋力との関連.日老医誌,49:195-198,2012.)
【筋量測定について】
筋量測定は上でも説明したようにサルコペニア診断では必須の条件になります。
日本人の場合、診断基準値が定まっている「DXA法」「BIA法」などがあります。
どちらも、計測には特殊な装置が必要であり、日常診療でも簡便にできる
筋量測定法の開発が進められています。
サルコペニアの割合は?
日本での地域在宅高齢者では10~20%にサルコペニアを認めるといわれ、
リハビリを行っている高齢者では約50%、老人ホームに入所している
高齢者では20~80%にサルコペニアを認めるという報告があります。
一度サルコペニアの状態を呈してしまうと、EWGSOPの定義のように
「身体機能障害、QOL の低下、死のリスクを認めやすい」とされるため、
その評価と対応は重要になってきます。
サルコペニアの原因
サルコペニアの原因は、加齢のみの場合を「原発性サルコペニア」
その他の原因(活動、栄養、疾患)の場合を「2次性サルコペニア」と分類します。
成人の低栄養の原因である「飢餓」「侵襲」「悪液質」は、
全て「二次性サルコペニア」の原因に含まれています。
摂食嚥下では多くの筋肉が使われますが、嚥下に関連した筋肉にサルコペニアを認めると、
サルコペニアによる「摂食嚥下障害」を生じる可能性があります。
臨床でよく見るケースでは「誤嚥性肺炎」があげられます。
誤嚥性肺炎は高齢者に多く、急性炎症による侵襲を認めるため、
全身や嚥下に関連した筋肉のサルコペニアが進行しやすい傾向が見られます。
誤嚥性肺炎では「安静」「禁食」とされることが多く、結果として
廃用によるサルコペニアを合併することが多くなります。
加えて、誤嚥のリスクがあるため口からの水分摂取ができず、「水電解質輸液」を
末梢静脈栄養で行うことが多くなります。
しかし、こういった形態での栄養管理になると「飢餓」による
サルコペニアも合併してしまいます。
一度「誤嚥性肺炎」を生じてしまうと、サルコペニアの原因とされる
4つの要素、全てを合併しやすい状況になってしまいます。
その結果、誤嚥性肺炎の発症前は軽度の摂食嚥下障害で3食の経口摂取が可能だった場合でも、
誤嚥性肺炎の治療後には重度な摂食嚥下障害となることがあります。
まとめ
今回は「サルコペニア」について解説させていただきました。
「サルコペニア」の定義も時代と共に徐々に変わってきているようです。
臨床に出てみるとわかるのですが、筋力低下で歩行もままならず、
なぜこんな状態になるまで放っておいたのかと感じる事も多々あります。
そういった背景には、家庭の事情もあるとは思いますが、
やはり、自己管理や予防といったところに目を向けておく必要があると
いつも痛感します。
次回は「フレイル」について記事にしたいと思います。
この記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。