こんにちは。作業療法士のトアルです。
今回は「短期記憶」について解説させていただきます。
前回の記事で紹介した、「記憶の貯蔵庫モデル」の中で、2番目の過程にあたります。
この「短期記憶」なんですが、ただ単に「感覚記憶」と「長期記憶」のつなぎの役割を
しているわけではありません。
実は、人の認知活動の中で決定的な役割を果たしており、
それを「作業記憶」(ワーキングメモリー)といいます。
記憶のメカニズムの歴史のなかで、初めは「短期記憶」という概念があり、
後に「作業記憶」という概念に置き換えられたという形になっています。
それでは、「短期記憶」と「作業記憶」この2つの記憶について詳しく見ていきましょう。
短期記憶と魔法の数7±2(マジカルナンバー7)とは?
「短期記憶」はごく限られた時間だけ(何もしなければ30秒程度)のわずかな量の情報を
保持しておく働きを持っています。
下に2つのリストを用意しました。一度だけさっと目を通した時、
どちらのリストの方がたくさん覚えていられるでしょうか?
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リストA も B も文字数は全く同じですが、たぶんリスト B の方が覚えやすいと思います。
短時間提示された情報を保持できる量は、短期記憶の容量に大まかに対応すると考えられており、
日常的な事を対象にした短期記憶の容量は、通常7個を中心として±2といわれています。
人はごく短い時間では5~9個のことしか記憶できないんですね※1。
これを「魔法の数(マジカルナンバー7)」と呼んだりもします。
では、この数字どうやって決められているのでしょうか?
※1 最近の研究では4±1や3±2とも言われています。
チャンク
過去に経験・体験したことが、長期記憶中で形成され一つの「まとまり」になります。
これが、短期記憶で使用される一つの情報の単位の基盤になると考えられています。
もう少し詳しく説明すると、生活の中で外部から新しい情報が入ってきたときに、
長期記憶側から短期記憶側に「まとまり」の記憶を持ってきて、外部情報と照合し
それらに共通のパターンがないか確認します。
この情報の「まとまり」のことを「チャンク」と呼びます。
例えば、リストAの文字列はどれも初めて見る文字の組み合わせだと思います。
この場合、チャンクで言えば1項目あたり「6チャンク」となります。
ですが、リストBはどれもよく知っている単語なので、1項目は「1チャンク」となります。
初めて知った難しい専門用語は全く覚えられないのに、自分の興味のある芸能人の名前などは
スラスラ覚えられるという経験はないでしょうか?
こういったことも、短期記憶の特徴が反映されていると考えられています。
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覚える文字数が多くなれば、覚える事が大変になるのは試験勉強や、臨床での専門用語でも
あると思います。心理学でも「人は一度にどれだけの情報量を覚えられるか?」という研究
が進められました。
その結果が、「マジカルナンバー7」だったというわけなんですね。
作業記憶は心の作業場
人は、普段周りのものを見聞きして記憶するだけでなく、すでに記憶していた事柄を思い出して、
今見聞きしたものと組み合わせて何かを考えたりしています。
このことから、感覚記憶と長期記憶の間には、単なる一時的な情報の貯蔵庫に止まらない、
もっと能動的な働きをする記憶のシステムが必要だろうと考えられるようになりました。
こうして提案されたのが「作業記憶」です。
「短期記憶」という概念から「作業記憶」という概念に変化したんですね。
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「作業記憶」は、目に入ってきた情報を保持する「視空間メモ帳」
聞き取ったものや自分が話している事柄を処理する「音韻ループ」
全体の働きを統括する「中央制御部」からなると考えられています。
人は物を目で見ながら、何か話したり、過去の経験を思い出したりしながら、
日常生活をスムーズにこなしていますが、作業記憶はこうした人の日常的な
行為を支えていると考えられています。
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作業記憶の日常生活での応用
特に自動車の運転や工場での作業などは高い安全性を要求されます。
こういった場合の作業に関しては一つのミスが重大な事故を引き起こす可能性が高くなります。
多くの情報を同時に処理し安全に作業を行うために、作業記憶を効率よく使用するには
どうすればよいかについて様々な研究が進められています。
例えば、車を運転しながら込み入った会話をしたり、大音量で音楽を聴いたりしていると、
作業記憶に負担がかかり、とっさにブレーキを踏むのが遅くなることが研究で証明されています。
また、本を読みながら音楽を聴くのはさほど難しくないですが、
本を読みながらTVを見るのは大変です。
この現象を作業記憶の観点から見ると「視空間メモ帳」に入れられる情報が競合してしまい、
情報をうまく処理できないためと考えられています。
日常的にも、仕事が忙しかったりするとテンパって変なミスをすることってありますよね?
その場合も、実は作業記憶が容量をオーバーフローしてしまうからだと言われています。
これを解決するには、業務に優先順位をつけて仕事量を減らすことや、集中力が必要な仕事は
集中力が高い朝の時間帯に仕事をこなすなどがあげられます。
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「ああ、これ聞いたことがある!」という単語も多く出てきて、
リハビリ職でもとっつきやすい内容になっていますよ。
まとめ
今回は「短期記憶とは何か?」について解説させていただきました。
まとめると、「短期記憶」で保持できる時間は30秒程度で、その容量は7±2という事。
単に記憶を保持するだけではなく、外部からの視覚や聴覚情報と長期記憶に
保存されていた情報を照合し、人の行動を決定していく重要な場所だという事です。
この記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。