橈骨遠位端骨折後の作業療法士の訓練内容と注意点について解説




こんにちは。作業療法士のトアルです。

前回は「橈骨遠位端骨折についての基礎知識(保存・手術療法)」について
解説させて頂きました。

聞きなれない方に説明をすると、橈骨遠位端骨折とは「手首の骨折」の事です。

今回は「橈骨遠位端骨折後の作業療法士の訓練内容と注意点」ということで
作業療法士が実際にどのような訓練を行うのか、
それはどういった目的をもって行うのかについて解説します。

また、その時に注意して欲しい所見についても解説します。

 

手指の拘縮の生じやすい場所

橈骨遠位端骨折後の後遺症として

「MP関節の伸展拘縮」
「手内在筋の短縮」

が生じやすいとされています。

これは浮腫により、「手指が動かしにくくなったこと」と「痛みにより動かしにくくなった」
ためです。

そのため、受傷後・術後は早い段階で「母指・手指自動運動」を行うように
患者さんに自主トレーニングの指導をします。

理由は『母指・手指の腱の滑走を促通し、骨折部の周囲の腱癒着と手指拘縮予防を行う』ためです。

しかし「浮腫」があると、これが患者さん本人だけではできないことがあります。
その時は、作業療法士による、他動での関節可動域訓練(ROM訓練)を行います。

関連記事として下のような記事もあります。興味のある方はどうぞ。
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MP関節に伸展拘縮に対しての他動ROM訓練

MP関節はギプス固定期間中の伸展拘縮が生じやすい場所です。

指が曲がらなくなっちゃうんですね。

橈骨遠端骨折の場合、通常はMP関節より遠位の固定はしないと思います。
もし、MP関節より遠位の固定がされている場合は担当医へ相談しましょう。

訓練としては下のイラストのような訓練を行います。

訓練時のポイントとしては

・疼痛を出さないように行う。
・訓練前後で可動域が上がっているかを見る。

になります。

経験上、痛みを我慢しても効果は上がりにくいことが多いですし、
翌日に疼痛が出る可能性もあります。

患者さんも痛みを我慢してやることも多いので、言葉でのコミュニケーション
だけでなく、表情が険しくなっていないかなどを評価できるといいと思います。

可動域については効果判定をしますが、患者さんの動きの「質」見る事・聞く事も重要です。

例えば、動かす「スピード」であったり「動かしやすさ(軽さ・重さ)」などです。

訓練後に患側と健側との左右がなくなれば、
訓練としては効果があり、改善しているといえるのではないかと思います。

 

主内在筋の短縮に対しての他動ROM訓練

主内在筋の短縮に対してはストレッチを行っていきます。

①MP関節を伸展位に保持します。
②PIP・DIP関節を同時に他動屈曲を行います。

下のイラストを参考にしてみて下さい。

なぜこの肢位でストレッチを行うかということですが、
手指を動かさないことで手内在筋が短縮位になり、PIP関節・DIP関節が伸展位を取ります。

このときの手指の形を「イントリンシックプラス肢位」といいます。

「短縮位」=「筋が収縮している」ということになり筋の長さ自体が短くなっています。

これを持続的に伸長してあげることで、手内在筋の柔軟性を改善していくという目的があります。

 

橈骨遠位端骨折後は肘関節も拘縮が生じやすい

橈骨遠位端骨折後に拘縮が起きやすいのは手関節や手指だけではありません。
実は「肘関節」も拘縮が起きやすくなります。

肘屈曲位で三角巾やアームスリングを長期間使用すると、肘の伸展制限
肩の挙上制限が生じやすくなります。

そのため着用は歩行時や外出時のみにし、肘と肩の自動運動を行うよう指導していきます。

私の経験上ですが、患者さんによっては指導がなければ
「骨折した側は動かしてはいけない」と思い込んでいる方もいます。

動かさないことで拘縮が生じてしまう事は避けましょう。

ですが、肘関節を動かすのにも注意が必要なこともあります。
それは『保存療法で橈骨の遠位端外側に骨片が存在する場合』です。

このケースで、肘の屈伸運動を行うと、腕橈骨筋の作用で遠位端の骨片が移動し、
疼痛の誘発や骨片が転移する可能性があります。

画像でこの部位に障害がないか確認してから指導をするのがいいと思います。
自分で判断がつかない場合は担当医や先輩と一度相談してみましょう。

 

X線画像での予後予測

前回お話しした画像でのパラメーターでは予後予測を行う上でも有効になります。

Ulnar variance(尺骨バリアンス)の増減により、遠位橈尺関節は適合性が低下します。
これが生じると、前腕回内・回外の可動域制限が生じる可能性があります。

また、Ulnar variance(尺骨バリアンス)がplusになると「尺骨突き上げ症候群」
合併することにより手関節の尺側部痛が生じます。
※上のイラストでは右端の図です。

この状況での運動療法は疼痛を増悪する可能性が高いため、担当医への相談が必要になります。

 

まとめ

今回は「橈骨遠位端骨折後の作業療法士の訓練内容と注意点」について
解説させて頂きました。

橈骨遠位端骨折の術直後・あるいは保存療法での作業療法は、
前回お話しした浮腫予防と、今回解説させて頂いた拘縮予防が中心となります。

上でも述べましたが、患側の手指や肘や肩関節などを動かさないため
拘縮が生じるケースも見られることもあります。

『循環を促通し浮腫を予防する』という目的があるということと
『拘縮の予防を行うために行う必要がある』ことを患者さんに説明する必要があります。

特に手指の場合、疼痛の誘発への恐怖心が強いため自分で動かしたがらない事もあります。

その対処方法なのですが、私の場合ですと
・初めは本人に動かせる範囲まで動かしてもらう。
・動かした所までを「良くできましたね」と「ほめる」(正のフィードバック)。
・「まだ、いけますか?」と尋ねる。
・いけそうだったら、様子をみる。
・上記を続ける。

それで「動きが止まったところの制限因子は何なのか」を評価して治療に入ります。

自動運動が止まった原因は痛みであったり、浮腫による指の可動域制限だったりと
患者さんによって原因は様々です。

痛みであればどこが痛いのかを評価し、必要であればストレッチなどを行います。
浮腫であれば皮膚の循環を促すなど方法は様々です。

長くなりましたが、急性期の橈骨遠位端骨折の術後の患者さんには
「浮腫予防」「拘縮予防」を行いましょう!

↓橈骨遠位端骨折のまとめ記事はこちらです。↓

この記事が皆様のお役に立てれば幸いです。