手の「対立アーチと尺側動的区分」について作業療法士が解説




 

こんにちは。作業療法士のトアルです。

前回は「手の縦アーチとイントリンシック・マイナス手・イントリンシック・プラス手」
について解説させて頂きました。

簡単に復習すると、「対立アーチ」は「中手骨」「基節骨」「中節骨」「末節骨」の
4つの骨構成になっており、
母指・示指・中指・環指・小指それぞれ1本ずつ存在するものです。
(母指は中節骨はありません。)

手を机の上に置いた安静肢位を観察すると、
MP関節を頂点に山のような稜線を描くと思います。

これが「縦アーチ」なのですが、
この山のような形は「外在筋」と「手内在筋」の自然張力で成り立っています。

話を戻しますが、今回は3つあるアーチの3つ目
「対立アーチ」について解説させて頂きます。

 

対立アーチについて

「対立アーチ」は母指と小指が向かい合う状態をいいます。
(小指と環指はほぼ同機して動くので環指も含むと覚えておいてください。
この2指は「尺側動的区分」と呼ばれます。)

このアーチは第1CM関節(TMC関節)と第5CM関節の対立位で構成され
湾曲度は動的に変化するので「動的アーチ」となります。

対立アーチを保つことは「にぎり動作」において重要な役割を果たします。
母指と環指・小指が対立位を保つことは「にぎり動作」において必要不可欠な要素なのです。

上でも述べましたが、この環指・小指「尺側動的区分」と呼ばれます。
次にこの「尺側動的区分」について説明させて頂きます。

 

尺側動的区分について

尺側動的区分は、尺側の環指・小指の2指で構成されます。

この2指の運動の基盤は第4・5CM関節になります。

この関節は、鞍関節の亜型で、母指への対立運動を可能にしています。
運動学的には「屈曲・伸展運動」になりますが、2つの骨を結ぶ靱帯構造により
最終域で屈曲・伸展に加え「回旋運動」が加わります。

このときの運動域は環指が約15°、小指が約30°になります。

この環指と小指が可動域を持つことで、
手は安定した「にぎり動作」を行うことができます。

少し視点を変えてMP関節レベルで見てみると、
遠位横アーチの動的変化を担っているとも言えます。

 

ハンマーにぎりで必要な尺側動的区分

環指・小指である尺側動的区分は握り動作の中でも
「ハンマーにぎり」で重要な役割をしています。

「ハンマーにぎり」では尺側動的区分のMP関節の安定性や
PIP関節・DIP関節の可動性が重要で母指に対して補助的な役割ではなく
主体的な役割を担っています。

この役割の根幹を支えているのが、第4・5指のCM関節になります。

第4・5CM関節は亜型の鞍関節で運動自由度は2ですが、
この指の間には「深横中手靱帯」があり、これが第4・5CM関節の運動を制限し
実際には「屈曲・伸展運動」のみになります。

これは一度冒頭でも述べました。

しかし、第4・5CM関節の動きは他の指の随意的な運動とは異なり
あくまで副次的に生じる動きです。

日常的に環指・小指だけを動かす動きは、ほぼないと思います。
しかし、尺骨神経損傷などでは手内在筋の萎縮が起きます。

特に環指・小指は尺骨神経支配の手内在筋で動かされるため
最も影響を受けやすい場所です。

これらの筋が委縮すると筋の付着部位付近の中手骨の間隔を狭めてしまい手の平坦化が起こります。
そうすると横アーチ・対立アーチの構造が崩れ「にぎり動作」が行えなくなってしまうのです。

 

まとめ

今回は「対立アーチと尺側動的区分」について解説させて頂きました。

少々、複雑ですが対立アーチの構成には環指・小指が重要であること、
そして、その根幹には第4・5CM関節があること、
これらに障害が生じると「ハンマーにぎり」に大きな影響が出ることを
覚えておくといいと思います。

対立アーチというと母指に目が行きがちですが、
環指・小指という尺側動的区分の理解も重要になってきます。

この記事が皆様のお役に立てれば幸いです。