ICFで考える住環境整備の方法について作業療法士が解説




こんにちは。作業療法士のトアルです。

以前の記事で「福祉住環境コーディネーター2級は作業療法士の業務に活かせるのか」
について解説しました。

今回の記事では作業療法士や福祉住環境コーディネーターが行う
「住環境整備で必要な評価」を記事にしたいと思います。

そのために『ICF』を元にした住環境整備の視点を
個人的な意見も交えつつ解説していこうと思います。

ICFを元にした住環境整備の視点

いわずと知れたICFですが、実は他職種ではあまりなじみが無いようですので簡単に説明します。

ICFとは、WHO(世界保健機構)が定めた分類になります。

人間の生活機能を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」「環境因子」「個人因子」という
5項目にわけて、「障害」がその人にどのような影響を与えているか判断するための「分類」です。

人間の生活を障害の有無だけではなく、活動や参加の状況や周囲の環境も考慮し、
サポートにつなげることを目的としています。

 

健康状態について

「健康状態」は疾患の特性についての項目になります。

当たり前かもしれませんが、疾患による特徴を把握することはとても重要になってきます。

現在の病態が固定化されたものか進行性のものなのかでも、
住環境を整備する部分は大きく違います。

病態が固定化された片麻痺の方への支援と、パーキンソン病などの進行する可能性がある病態では
予後を見据えて環境整備をしなければなりません。

特に進行性の疾患ですと、身体機能の低下により今後は自宅内でのADLを行うことが
難しくなることも考えられますよね。

なので、現時点で必要な環境整備もそうですが、病状が進んだ場合にフォローできるような
環境を設定する必要があります。

 

心身機能・身体構造について

「心身機能・身体構造」である「身体機能・認知機能」をしっかり把握することも重要です。

リハビリ職の専門性を発揮できる部分ですね。

筋力や関節可動域の評価や運動麻痺、感覚障害があっても可能な動作は何か、
理解や表出などの認知面を評価する必要があります。

そうでないと、どこに介助が必要なのか、本人・家族さんが理解できなかったり、
在宅で支援するケアマネさんや訪問看護・介護の方も混乱するからです。

なぜこの支援が必要なのかを、言語化して明確に説明できることが重要で、
ある意味、福祉住環境コーディネーターの資格のある作業療法士の腕の見せ所となる場面です。

リハビリテーションの最大の目的は、ICFの「活動」「参加」を促すことです。

ICFでの「心身機能・身体機能」を評価し、改善することは、
最終的には「活動」や「参加」につながっていくのです。

ですが、「身心機能・身体構造」の改善が今後も難しい場面にも遭遇します。
その場合には、環境調整によって機能維持や向上をさせていくという視点も重要だと思います。

 

活動・参加について

「活動」「参加」の評価では、自宅で行っていたADLやIADLと、
現時点で遂行可能なADLとIADLを比較することも必要になります。

また、自宅内でどういった動線を辿っていたのかも把握していきます。

これらは、リハビリ専門職が住環境を整備する際に、基本的な事として評価すると思います。

例にすると

➀屋外から屋内へ移動する際の玄関アプローチ
➁上り框
➂玄関から自室への動線
➃自室から食卓への動線
⑤自室からトイレへの動線
⑥自室から浴室への動線

などがあります。

それぞれのADLの様式に合わせた住環境整備や対象者の方の自立支援を行う視点が必要になります。
また、ADLだけでなくIADLの遂行状況を把握して、環境整備することも重要だと思います。

「楽しみ」や「生きがい」について

人の生活は基本的なADL遂行のみで構成されている訳ではありません。

その人らしい充実した生活には、「楽しみ」や「生きがい」を感じられる活動も
住環境整備によって遂行可能になるようになれるといいのではないかと思います。

例えば、本人から「庭いじりがしたい」という希望があれば、段差に手すりを設置する、
スロープを付ける、転ばないように座って作業ができる場所を設置するなどがあげられます。

 

環境因子について

環境因子こそ、福祉住環境コーディネーターの資格をもつ人の本領を発揮できる所だと思います。

そのためには、住宅改修や福祉用具を使用するにあたり「使える制度」を
知っておく必要があります。

必要な改修や福祉用具が介護保険の住宅改修対象なのか、
必要な福祉用具が貸与や購入で対応可能か知識が必要になります。

また、障害者への補装具費支給制度(車いすなど)についても把握が必要になってきます。

環境因子といえば「物品」だけを想像される方も多いと思います。
ですが「マンパワー」である「家族構成」を忘れてはいけません。

主な介助者が家族のどなたかを把握するのは重要です。
実際に「老々介護状態」の場合もあるからです。

「老々介護」では介護の負担が大きく、負担が掛かり過ぎれば「共倒れ」ともなりかねません。

こういったケースもあるため、トイレや浴室などの共有スペースも対象者以外の家族が、
ADLを遂行する際に使い勝手が良いように考慮する必要があります.

また、環境因子として忘れていけないのが、「朝・昼・晩」などの「時間帯」や、
「春・夏・秋・冬」などの「季節」についても考慮が必要です。

「時間帯」については、日中の生活だけではなく、
転倒しやすい夜間や早朝なども考慮して環境整備する必要があります。

「季節」については、屋外と屋内を結ぶ玄関アプローチなどでは、夏季と冬季では
自然環境に大きな差がでるので、どちらの季節も想定した環境整備が必要です。

そして「予算」についても考慮が必要になってきます。

「予算」は有限の場合が大半なため、無駄な設備は行わないようにする必要があります。

どうしても病院内だけで考えると、あれもこれも設置した方がいいのではないかと考えがちです。

ですが、実際に現場に行ってみると、手すりの代用となりそうな扉の突起部分や
介助方法の工夫で何とかなる事もあります。

 

個人因子について

個人因子は住環境整備を行う上で重要な要素です。
「年齢」や「性別」などがこれにあたります。

特に対象者の年齢を考慮することは重要で、今後何年間自宅で生活するのかを考える事も必要です。
いわゆる予後予測になります。

自宅で生活する期間にある程度の予測を立てておかないと、
福祉用具のレンタルの場合は費用がかさむため、自費での買取の方が安くつくこともあります。

対象者によってケースバイケースなので、それに応じた予算への配慮が必要になるでしょう。

まとめ

今回の記事では『ICF』を元にした住環境整備の視点を個人的な意見も交え解説させて頂きました。

病院内のリハビリだけだと対象者の方の生活が見えてこなかったり、
杓子定規的に環境整備を行おうとしてしまう傾向があります。

実際に、私自身がそうでした。

現場に行って、ご自宅の状況を生で見て、本人や家族さんのニーズが
理解でき、実感できることもあります。

病院内だけでは見れないことがたくさんあるので、
機会があれば、率先して家屋調査に参加してみた方がいいと思いますよ。

この記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。