「地域包括ケア病棟」について作業療法士がやさしく解説




こんにちは。作業療法士のトアルです。

皆さんは「地域包括ケア病棟」という病棟をご存知でしょうか?

この名称は2014年の診療報酬改定で採択された呼び名で、
かつては「亜急性期病棟」という名称でした。

回復期病院とは異なるシステムで運用される病院で、
急性期病院を退院し、直接、自宅退院を目指すことが難しい場合や、
今後は自宅退院を目指したい、という場合の選択肢となる病棟です。

「脳血管リハビリテーション」や「運動器リハビリテーション」以外の
疾患の方が転院されるケースが多くなります。

今回は「地域包括ケア病棟」について解説していきたいと思います。

地域包括ケア病棟とは

地域包括ケア病棟とは、急性期病院での治療をが終了し、病状が安定した人に対して、
在宅や介護施設への復帰に向けた医療や支援を行う病棟のことです。

従来は、「回復期リハビリテーション病棟」や「療養病棟」などの
病棟が転院先として考えられました。

ですが「地域包括ケア病棟」は急性期病院と自宅退院の間にある療養場所の選択肢になります。

地域包括ケア病棟の歴史

冒頭で述べたように、「地域包括ケア病棟」は2014年より前では
「亜急性期病棟」という名称の病棟でした。

急性期の治療を終えた状態ではあるものの、
『まだ治療やリハビリが必要な状態=亜急性期の方』を対象としています。

2014年の診療報酬改定で変更された名称ですが、
変更は名称だけでなく、入院料の算定要件が変更されています。

この変更により、自宅退院を目標とした医療に変わったといえます。

 

地域包括ケア病棟の特徴とは?

地域包括ケア病棟には大きく3つの特徴があります。

➀自宅退院・介護施設入所をゴールとする
➁入院日数の上限は60日まで
➂急性期病院のような高額医療は受けられない

これら3つの特徴を詳しく見ていきましょう。

➀自宅退院・介護施設入所をゴールとする

「地域包括ケア病棟」に入院する患者さんには原則があります。

それは入院後の最終的なゴール設定が
「自宅退院」または「介護施設へ入所する」という原則です。

「地域包括ケア病棟」から、再度別の病院を選択し転院することは制度的に難しくなっています。
(ただし、再び状態が悪化した場合は別で急性期病院へ戻ることもあります。)

これは「地域包括ケア=在宅へ戻る」ことを前提とした病院だからです。

「地域包括ケア病棟」は、「在宅復帰」までのつなぎの役割なので、
最終的なゴールが別の病院(例えば回復期リハ病棟)となってしまうと、
元々の趣旨から外れてしまいます。

ここで「あれ?施設は在宅ではないんじゃないの?」と思う方もいるかもしれませんが、
ここで言う「在宅」は自宅だけでなく「介護施設」も含まれます。

これは介護施設も患者さんにとっては「生活の場=自宅」との考え方があるからです。

逆に言えば、直接自宅での介護ができず、介護施設を探す場合や、
介護保険認定を受けていない独居の高齢者など、申請の手続きが終えるまでの
時間調整の場にもなります。

これらのことから、「地域包括ケア病棟」は、つなぎの機能を持つ場所となります。

➁入院日数の上限は60日まで

「回復期リハビリテーション病棟」と同じように、
「地域包括ケア病棟」にも入院できる上限日数が定められています。

その上限日数は最大60日=2ヶ月です。

そのため、60日以内に退院できるように治療やリハビリを進めていくことになります。

この入院期間中に「在宅復帰」を目指した調整を行います。
上述した介護施設や介護保険の手続きなどです。

もし60日以上の長期の入院が必要となる場合は
「地域包括ケア病棟」への入院はできないことになっているのです。

➂急性期病院のような高額医療は受けられない

「療養型病棟」と同じように「地域包括ケア病棟」で受けられる医療やリハビリは、
決められた費用の中で対応することになります。

そのため、急性期病院と同じような高額な治療はできないようになっており、
高額な治療を必要とする急性期の状態を脱した人が入院するのが前提の病院となるのです。

高額な治療を継続する必要がある場合、病院同士の話し合いで
以下のような対応がとられることがあります。

・地域包括ケア病棟を退院した後に急性期病院へ外来通院する
・予め薬価の高い薬を急性期病院で処方してもらい、転院後も内服し続ける

これらは費用の問題になります。

この2つのケースではどちらかの病院が医療費を負担するため、実際のところ、
対応が難しい部分でもあります。

こういった費用の兼ね合いもあるのですが、
基本的に「地域包括ケア病棟」は、「高額な治療は退院まで受けられない」
ということを知っておいた方がいいかもしれません。

 

地域包括ケア病棟の対象患者

地域包括ケア病棟には、上記のような特徴がありますが、
具体的に、どのような方が対象となるのでしょうか?

これには以下の3つのパターンがあります。

1.地域包括ケア病棟の入院期間内で自宅退院が見込める方
2.施設入所までの待期する時間が必要な方
3.医療的な処置の習得に時間がかかる方

それぞれ個別に見ていきましょう。

1.地域包括ケア病棟の入院期間内で自宅退院が見込める方

地域包括ケア病棟に転院後、最大60日以内のリハビリで回復し、
自宅への退院が可能と見込める場合に転院ができます。

身体機能的には自宅退院が可能でも、介護保険を持っておらず、ADLを遂行できない場合や、
介護保険を持っていても、現状では転倒リスクが高く、自宅内の環境調整が必要な場合です。

こういったケースの場合に、自宅までの一時的な待機場所として
地域包括ケア病棟の利点を活用できます。

特に、介護保険を利用する必要がある方の場合、
介護保険の申請から認定が下りるまで約1ヶ月かかります。

そのため、地域包括ケア病棟でリハビリを継続しながら申請を行い、
結果が下りた後に退院して、介護保険サービスを受けながら
自宅で生活できるように調整していきます。

2.施設入所までの待期する時間が必要な方

今後、入所する施設は決まっている状況でも、すぐに空きがでないときは
待機が必要なこともあります。

独居高齢者の場合は自宅で入所を待つのに不安がありますが、
このような場合でも地域包括ケア病棟の利点を活かせます。

ただし、このケースだと、60日以内に希望する施設に空きが出ることが条件となります。

急性期病院から自宅退院し、施設に映るまで自宅で待機するのに不安がある方にとっては、
安心して施設に入所可能な方法の1つとなります。

3.医療的な処置の習得に時間がかかる方

急性期病院から自宅退院するときに、退院後に自分自身で何らかの医療管理を
継続しなければならない状態の人もいます。

例えば「ストマ増設後のストマ管理」「インシュリンの自己注射」が必要な方などです。

急性期病院での入院中に処置の方法を覚えることができればいいのですが、
高齢者の方の場合など処置の方法を覚えるのに時間がかかる人も中にはいます。

そのような人が処置の方法を覚えるための猶予期間として、
地域包括ケア病棟を利用するケースもあります。

管理の方法の習得が不十分なまま自宅退院をして、
結局上手くいかずに再入院となってしまう方も多いんですね。

そうであれば、転院をして入院期間を延ばし、その間に管理を十分に覚えて自宅退院する方が、
身体や精神的な負担を減らすことができます。

経済的にも余計な入院費の支払いを抑えることにもつながります。

おわりに

今回は「地域包括ケア病棟」について解説させて頂きました。

地域包括ケア病棟は急性期病院から退院した後の在宅・自宅復帰への橋渡しとなる病棟です。

高齢化社会も進み、今後はより必要となる地域包括ケアの中で、
自宅で生活を続けるための重要な存在となると考えています。

もし急性期病院を退院する際に、そのまま自宅へ退院するのが不安であれば、
病院のスタッフ(ソーシャルワーカー)と相談してみることをおススメします。

転院ができるかどうかは主治医が最終的に行いますが、
現状を総合的に考慮して方針が決められるはずです。

急性期で勤務しているスタッフも介護保険や地域包括ケアについての基礎知識は必要と思います。

全て説明できなくても、病院には専門のスタッフもいるはずですし、
制度で分からないことがあればソーシャルワーカーなどに相談をしてみるのも手段の一つです。

この記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。