こんにちは。作業療法士のトアルです。
前回は「廃用症候群の骨格筋系への悪影響」について解説させて頂きました。
臥床による悪影響の分け方は大きく分けて4つ。
「呼吸器系」「循環器系」「消化器系」「骨格筋系」になります。
今回は「消化器系への廃用症候群の悪影響」について取り上げようと思います。
消化系への安静臥床の悪影響
安静臥床による消化器への影響の原因は以下の3つに大別できます。
1.循環血液量の減少
2.精神的ストレス
3.食後の姿勢の変化
それでは以下に詳細に解説していきます。
1.循環血液量の減少
循環器の方でも紹介したように、人は臥位になると上半身の血流が増大し、
利尿が進んだ結果、循環血液量が減少します。
循環血液量が減少すると、体内の循環血液量を増加させるために
循環器系の活動が亢進します。
すると、交感神経が優位となるため副交感神経系が抑制され、
結果として腸管の蠕動が抑制されます。
2.精神的ストレス
安静臥床の状態では精神的なストレスが発生します。
石崎らは、20日間の安静臥床研究で、どのようなストレスを受けるかを研究しました。
そのために評価を3つ行いました。
心理学的評価法を2つ、生化学的評価法を1つ実施しています。
心理学的評価法の1つは、うつの程度を評価する「SDS (Self-rating Depression Scale)」
もう1つは、神経症傾向を評価する「GHQ(General Health question )」です。
生化学的評価法は、ストレスホルモンの尿中代謝物質を評価する方法です。
人がストレスを感じた時に出される「17-OHCS」 の測定を行いました。
この3つから以下の結果を報告しています。
この実験結果から、安静臥床が続くとSDS値・GHQ値ともに上昇傾向が見られ、
「うつ」や「神経症」の傾向が出現してくることがわかりました。
また、ストレスホルモンの代謝物質である「17-OHCS」は上昇が見られ、
安静臥床により精神的なストレスが加わったことが数値から分かったそうです。
ストレスは交感神経の活動を賦活させ、副交感神経の働きを抑制します。
そのため、副交感神経に支配されている消化器系に影響が出てきます。
具体的に言うと、腸管の蠕動運動の抑制や、胃酸の分泌の増加、胃潰瘍などです。
さらに、うつや神経症の傾向の出現により食欲の減退、体重の減少へと繋がります。
3.食後の姿勢の変化
食事をとるとき、食物(食塊)が食道から胃・腸へと移動するためには重力が
重要な役割を果たします。
座位から臥位へと姿勢を変えると、重力の影響が除かれるため、
食物(食塊)が消化管を通過する時間が長くなります。
消化管内に食物(食塊)がとどまる時間が長くなると、空腹感を感じなくなり
食欲の減退へと繋がります。
また食物(食塊)が前に進まないと、胃内部で食塊が滞留するため、
胃内から食道へ食物(職階)が逆流し逆流性食道炎が起こりやすくなります 。
まとめ
今回は「消化器系への廃用症候群の悪影響」について解説させていただきました。
まとめると、長期の安静臥床状態では、上半身への血流増大により、
利尿が促進され循環血液量が減少、それを補うため交感神経系の活動が賦活
され続け、結果的に副交感神経系も抑制され続けます。
消化器系は副交感神経系に支配されているので、その働きが抑制されると
消化器系の異常が起こるんですね。
このように長期の安静臥床は、交感神経や副交感神経のバランスを長期に
渡って崩し続けます。
人の交感神経や副交感神経は日内変動のリズムがあります。
どちらかに偏っていても身体に不調をきたすと言われています。
このバランスを整えるためにも、早期臥床は必要なんですね。
この記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。