「結晶性知能」と「流動性知能」の違いについて解説




こんにちは。作業療法士のトアルです。

OT(作業療法士)の認知機能評価というと高次脳機能障害の評価を思い浮かべる事が
多いと思いますが、脳の機能障害を評価するという点から「認知症」でも使用します。

認知機能(知能)には、
「加齢により変化しにくいもの」「加齢により変化するもの」
存在するとされています。

「加齢により変化しにくいもの」を「結晶性知能」といい
「加齢により変化するもの」を「流動性知能」とよびます。

今回はこの2つの「知能」に関しての解説をしようと思います。

はじめに

知能に関して色々な考え方がありました。
イギリス出身の心理学者Cattellは、知能を「結晶性知能」「流動性知能」という
2つの能力として分けようと考えました。

以下に、2つの知能についての説明をします。

 

結晶性知能

結晶性知能は、言葉やその意味、一般的な知識や過去の学習、職業経験によって蓄積された知識、
それに基づいた判断力を含む能力のことです。

つまり「これまでの人生経験の結果が結晶化」されたものです。

学校・職場などの環境や、社会・文化的要因が強く影響すると考えられています。

【検査の方法】
これを検査で確認するためには、言葉の意味や一般常識問題など、
これまでに個人が獲得してきた「知識量」を調べる事になります。

・ウェクスラー式成人知能検査(Wechsler Adult Intelligence Scale:WAIS-R, WAIS-Ⅲ)
・ 三宅式言語記銘力検査
・標準失語症検査(Standard Language Test of Aphasia:SLTA)

などがあります。

※これらは語彙力を調べる他に前向性記憶検査も兼ねています。あくまでも例です。
  必ず必要というわけではありませんし、他の検査を使用する事もあります。



流動性知能

流動性知能は情報を獲得・処理・操作・学習し、新しい環境に適応するために必要な
「問題解決能力」のこと
です。

生得的な要因が強く、環境の影響を受けにくいとされています。

【検査の方法】
これを検査で確認する場合は、課題遂行の速度や効率などの要素を調べる必要があります。

・ウェクスラー式成人知能検査(Wechsler Adult Intelligence Scale:WAIS-R, WAIS-Ⅲ)
・レーヴン色彩マトリックス検査(Raven’s Coloured Progressive Matrices:RCPM)

などがあります。

※これらは検査の例です。必ず必要というわけではありませんし、他の検査を使用する事もあります。

 

加齢による影響

「結晶性知能」の特徴として、加齢の影響を受けにくく60歳を過ぎても
保持・発達するとされています。

「流動性知能」は加齢に伴って低下しやすく、20歳半ばでピークに達し、
60歳代までに緩やかに下降した後、急速に低下するとされています。

私の経験談

加齢が進むと入院を契機とした病院という新しい環境に適応するのは難しい場合があります。

理由としては「流動性知能」が低下している可能性が考えらえます。
新しい環境に適応するためにはその場のルール・決まり事を記憶し、その範疇で自己の行動を
決定していく必要性があります。

新しい環境のルールや決まり事を覚えるためには記憶の機能が働いていなければなりません。

作業療法士はこの記憶の機能を評価する必要があります。

臨床でよく行う評価方法としては、HDS-RやMMSE、FABなどがあります。
そこから医師などの依頼があれば上記の検査を行うようにしています。

検査にあたり患者さんの心理的負担もありますし、
時間の拘束もあるので全てを行えるわけではありません。

本人や介助者(病棟看護師も含む)が、生活のどんな場面で困っているかを聞き出し、
それとスクリーニング検査が一致するかどうか評価するために用いる事が多いです。

例えば、病棟での生活で口頭でいくら注意しても記憶することができず
ナースコールを使用しないケースがあれば、貼り紙を出してみるなどです。

遅延再生が低下している場合、覚えた事を「想起」できない場合があります。
しかし文字を読むことで「記銘」したことを「想起」できればルールを守ることが
可能になるかもしれません。

↓「記銘」「想起」について詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみて下さい。

この場合、HDS-RやMMSEで即時記憶・短期記憶での減点は見られますが、
書字理解は良好な場合が適応すると思います。

文字とナースコールの言葉の意味が理解できない場合は
ナースコールの写真付きで見やすい所に掲示するなどです。

具体的な例を細かく提示することでナースコールを使用してくれる方も結構います。

↓神経生理学検査について詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみて下さい。
MMSEについて
FABについて
コース立方体組み合わせテストについて
レーブン色彩マトリックス検査について

 

おわりに

認知機能を評価して終わりではなく、その評価をもとに問題点をどう解決が出来るかが
作業療法士としての腕の見せ所なのではないかと思います。

初めの頃は悩むことが多くて苦労すると思いますが先輩などはどうしているのか
アドバイスをもらってもいいかもしれません。

この記事がご参考になれば幸いです。